第7話 恋愛⑥
別れは突然訪れた。
専業主婦のカエデは携帯電話の名義を夫にしていた。
最近メールすることが多いと感じたカエデの夫は、携帯電話会社に問い合わせて、彼女が使用するメール履歴を調べたのだ。
そこにはもちろん祐一との履歴が多数残っている。
浮気したことを散々責めてきたくせに、お前も他の男とこんな親密な付き合いをしていたのかと喧嘩になった。
カエデも浮気とメールを比較されることに納得できなかったし、そもそも浮気されたことで話を聞いてもらいたいからやり始めたことであり、祐一とのやりとりのおかげで気持ちを保っていられた部分もある。
お互いの言い分をぶつけたら、もちろん彼女の方が有利だ。
ただどんなに正論をぶつけても、夫の離婚するという言葉を受けると、せっかく夫婦関係の修復にむけてきたことがご破算になってしまうし、子供とも離れ離れなるかもしれない危惧も出てくる。
離婚したくないわけではないが、今されるのは困る。結局カエデは夫に従わざるを得なくなった。
夜中の三時に祐一のもとにメールが届いた。
深夜のメールに祐一は驚いたが、内容を見るとその時間まで喧嘩していたのだろうということが推測できた。
『突然ごめんなさい。夫にメールをするのを止めろと言われました。メールは悪いことなの? 悪いことしているのはそっちじゃん。いくら言っても聞いてもらえず、今後の夫婦関係を破綻させないためにメールを止めないといけなくなりました。今まで色々と支えてきてくれてありがとう。本当に急でごめんなさい』
突然の内容は祐一に衝撃を与えた。心を大きなシャベルでえぐり取られた気分になった。
夜中にメールがくるなんて緊急事態であることは読む前から分かっていたが、突然の別れだとは思っていなかった。
彼女が家庭を取った決断を受け入れるしかない。所詮自分はただのメル友なのだから。
カエデの人生を邪魔してはいけない。
『そっか。こちらこそ色々お話できて楽しかったです。色々あってもまた前のような夫婦関係に戻れたらいいね。今までありがとうございました』
本当はこんな物分りのよい文章を書きたくない。
嫌だ。
離れたくない。
カエデも自分のことを好いてくれているはずから、説得次第では夫に内緒でメールを続けさせることもできそうだ。
だが、それはしなかった。
みっともない姿を見せたくなかったし、困らせることもしたくなかったからだ。
でも一番の理由はそれをしたのにカエデからメールが来なくなることへの恐怖のような気がする。
こうして一年近く続いた最初のメル友とは、あっけなく終わってしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます