第6話 恋愛⑤
カエデとメールして数か月がたち、彼女も浮気されたことのショックがなくならないまでも、なんとか夫婦関係の修復にむけて動いていた。
あまり聞けないことだが、まれだった夜の営みも積極的にするようにして、肉体的にも夫を満足させているようだ。
よかったのかなと思う反面、嫉妬心も持ってしまう。
夫婦だから当然の行為なのだが、両想いの自分とはなくて、好きかどうかよく分からない夫とは肉体関係がある。
ちょっと心が痛むが、これがメル友というものなので仕方がないことだろう。
ただ、これからメールする上で考えなくてはいけないのが、カエデは夫婦関係を続けていきたいかだ。
一番大切なのは子供たちであろう。その子供たちの父親だから夫婦を続けたい。父親が他の女性のところに行くなんて許せないから欲求不満にさせない。
そこは理解できる。
だが果たして浮気はされたけれど夫のことをまだ好きな気持ちが残っているのか、それとも子供の為と自分の気持ちを殺しているのかが分からない。
多分本人も分かっていないような気がする。
それを自分が解読することができて、的確なことを言ってあげられたら良かったなと祐一は思えた。
お互い色々な葛藤を持ちながらも祐一とカエデは恋人のようなメールのやりとりは続いた。
そうなると一緒に遊びに行きたいという話が出てくるのは当然なのだが、既婚者同士ということが二人を思いとどまらせた。
ただそういった話は楽しんでいた。
『遊園地なんて子供ができる前に行ったきりだから、もう6~7年は行ってないよ』
『じゃあ、いつか一緒に行こうね』
本当は今週末にでも誘いたかったが会わない方がいいと思われる二人なので、いつかとつけることで変な警戒がなく会話を楽しむことができた。
それと同時にずっとこのままの関係でいようねという意味も含まれていた。
『子供が小学校に入ったら手がかからなくなるから、えーと、2年後かな』
カエデも祐一と同じ感性のようで二年間は一緒にいたいと思ってくれたようだ。
カエデの家は神奈川県の小田原市にある。東京都とは隣同士だから電車で二時間くらいの普通に会える距離だ。
既婚同士という理由は建て前でもあった。お互い会うことで今の恋人同士のような関係が崩れるのが怖いという思いもなくはないが、そんなことで崩れる二人の関係ではないと確信がある。
問題はカエデが悩んでいることが夫の浮気であったからだ。
やはり異性と二人で会うというのは、自分も最低な夫と同じになってしまうという思いがあった。
『二年たつと僕も三十代でオジサンと呼ばれちゃうかもね。そうなっても嫌わないでよ』
『嫌うわけないじゃん。だったら私の方こそオバサンになっちゃう? あー、オバサンになったら私のこと捨てる気だ』
お互い信頼関係が構築された同士の会話は冗談が成立する。
メールの場合はニュアンスが伝わりにくいので危険ではあるが、それが分かりあえるのも相性の良さなのであろう。
『それじゃあ。二年後に遊園地に遊びにいくことを約束ね。忘れないでよ。カエデさん忘れっぽいからな』
『うん。絶対忘れない。約束ね』
カエデから短いメールが送られた。
普通の会話では何気ないやりとりに思えるが、メールで「うん」と言われると妙に距離が近い気がして嬉しくなるものだなと感じた。
二年は長いけれど、こうやってやりとりしていたら、あっという間に二年たつのであろう。
その頃は三十歳か。どうなっているのだろう。
祐一はふと二年後の自分を想像してみた。
このままの結婚生活をしていることが本命であろうが、もしかしたらカエデと夫婦になっていることもありえるかもしれないと考えてみた。
いきなり子供が二人増えて父親として大丈夫なのだろうか。
あまり現実味のない想像であるが、けっこう真剣にその場合のシミュレーションを行ってみた。
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