第5話 恋愛④

祐一は息子を連れて近所の公園に散歩にきていた。小さな噴水とそこから流れ出す人工的な川が公園の中央にある。

真夏の猛暑のときは、この川でよく子供達が遊んでいる光景を見ることができる。まだ夏まではちょっとある。子供達は川の中に入ることはなく、手を水につけて遊んでいた。


息子の名前は俊太という。まだ三歳であるため、この川で遊ばせるのは早い。ただ手を繋いで一緒に歩いているだけだ。


ワゴン車の後部座席を改良したお店が何件かあった。俊太がそれを見つけると早速おねだりが始まった。

「あー。たい焼きがあるよ。食べたいな」

駄々こねてねだらないあたりが、三歳なのに少ししたたかさを感じる。勢いよく欲しいと言われると、こちらもダメとなるが、こんな感じで欲しそうにされると、つい買い与えてしまいたくなる。

といっても、散歩で何か一つ買うことはいつものことなので、その様子を特に気に留めるわけではないのだが。

「じゃあ、たい焼き買おうか」

「うん。ほしい」


その時、お店の前で並んでいた祐一のポケットにある携帯電話が着信を知らせるために振動した。

祐一は振動の回数を数える。三回で止まればメールで、四回以上振動があれば電話だからだ。

予想通り振動は三回で止まった。

きっとカエデからだと心が躍り、今すぐにメール確認をしたい状況になった。

たかだかメールなのにどうしてこんなに早急に見たくなるのだろう。すぐ返事をしなくちゃいけないものでもないのに。


最近のたい焼きはあんこ以外にも色々な具材が中に入っている。

白あん、カスタード、チーズ。

何にすると不意に聞かれた俊太は、どれがいいのか判断できずに固まっていた。

「あんこでいいよな」

祐一の聞き方はもちろん何の変哲もない日常のことであるが、その中にほんのわずかだけ、買うのを急いで早くメールをみたいという下心が入っていただろう。

たい焼きを二つ買って、近所のベンチに座って俊太が食べ出すのを確認すると、そそくさと携帯電話を取り出した。


やはりカエデからのメールだった。

これを確認できて、はやる気持ちがなくなったことを実感できた。

それと同時に、隣でたい焼きを食べることに全神経を注いでいる息子の姿を見たとき、息子よりもメールを優先させてしまったような気がして、少し罪悪感を持ってしまった。


だめだだめだ。


特に首を振ったりとかのジェスチャーをするわけではなかったが、心の中で数分前の自分の行動を反省した。

ちゃんと一線を引かないといけない。

家族や友達と過ごす時間はそのことに集中しよう。メールは自分の空き時間に対応できるのが利点なのだから、すぐ返事しなくてはなどの変な強迫観念を持つのは止めようと。

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