第2話 恋愛①

初めての返信がとても嬉しかった。

ちゃんと届いていることも分かって安堵の思いもある。

相手は同じ20代の方で東京都在住。

今日の気温が寒かったことと、私の写真撮影の趣味に対しての褒め言葉などが書かれていた。


まずはお返事ありがとうございますというお礼と、写真に興味を持ってもらえたことから、近所の公園からとる夕日が綺麗とか公園には遊びに行かれますかというような内容を書いて送信した。


しかしその後彼女から再度の返信はなかった。


一度返事が来たからといってそれで話し相手にはなれないらしい。

きっと律儀な女性で結構な人数に返信したのであろう。そこからさらに興味を持てる相手を見つけるというものであると思った。

祐一の普通の会話では何も特徴がなかったということだ。


そんな失敗をしていくうちに初めての話し相手ができた。

彼女のハンドルネームはカエデといい、結婚して子供が二人いる。

夫は出版業者に務める会社員で、ごく普通の家庭という印象だ。


彼女と仲良くなれたのは話のテーマがはっきりしていたのが大きいと思われた。

彼女の夫は浮気をしてカエデに見つかったのだった。

傷心の彼女は愚痴を聞いてほしかったし、これから離婚すべきかなど相談にのってほしかった。

一瞬上手く誘導して、こちらも浮気をやり返したらと思いもしたが、あまりせこいことをするのは好きではないので、その考えはすぐに捨て去った。


カエデが本当に望んでいることは何だろう。

離婚だろうか。

でも浮気されてショックということは、やはり夫のことが好きな気持ちがあるからだろう。

そう考えると浮気を許せる気持ちにさせていくことだろうか。


祐一は真剣に考えて、思うことをメールに書いていった。

ときには気晴らしも兼ねて、浮気のこととは関係のない日常起きたことや、テレビの話もした。

そのうちサイト経由でのメールのやりとりに距離を感じ、お互いの携帯電話のアドレスを教えあって直接メールのやりとりをするようになった。


アドレスを教えて数十分後に祐一の携帯電話が着信を知らせた。

多分カエデだろう。


『こんにちは。ちゃんとメール届いているかな? これからは携帯でよろしくお願いします。さっそくなんだけど、今日も朝からいらいら。だって私がこんなに苦しんでいるのに、夫はのんきにテレビ見て笑っているんだよ』


『メール届きました。なんだかより仲良くなれた感じがして嬉しいですね。こちらこそよろしくお願いします。確かに能天気な感じの振る舞いはいらいらしちゃいますよね。ただ一日中反省して暗くいるのも困りものでしょうし、難しいですね』


直接のメールのやりとりは、思春期の恋愛のような高揚感を思い出させてくれた。

二人だけの秘密の会話。カエデと繋がったような安心感。

そんな心地良さが祐一を包んでくれた。


『まあ、子供のこともあるから、一緒に遊んでくれたりと楽しくするのはいいんだけどさ。なんだか私ばかりがいらいらしちゃうのに納得がいかない感じ。そうだ。せっかくこうして直接お話するようになったんだから、いろいろ聞いてみてもいい? 好きな食べ物とか休日は何して過ごすとか』


こうしてカエデと様々な話をするようになった。


祐一の仕事が休みで暇な時などは、朝のおはようの挨拶から始まり、その後も三十分おきにメールのやりとりが続いて夜のおやすみの挨拶まで、一日30通くらいやりとりすることもあった。

恋人でもこんなにメールのやりとりはしないなと、ちょっと面白くも感じる。

カエデも同様なことを思っているらしく、メールの文章に『一日にこんなにたくさんメールしたこと初めて』と書いてあった。


なんだか心同士が結ばれたような気がして、祐一はちょっとした充実感を得られた。

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