メール友達

鳳珠 莉央

第1話 プロローグ

本作品は、モデルにした人物はおりますが、

書かれている発言や行動などはフィクションであり、

実在の個人・団体などとは一切関係がありません。






友達以上、知り合い未満。


矛盾しているような言葉だが、そういう人間関係が存在する。それがメールだけで交流する友達のメル友というものだ。

友達や家族に言えないようなことや本音を話したりできるが、知り合いよりも希薄で、ふとしたことで存在を消されてしまう。


メル友との関係は仮想世界の話ではなく、お互い人間同士の現実のことではあるが、現実とはちょっとだけ違う。

場合によっては名前も知らない相手と肉体関係にすらなる少しだけ不思議な現実だ。

このとこに気づいたのはもちろんメル友と話すようになってからである。

能登祐一が結婚して数年たった二十代後半のことであった。


きっかけはネットワークゲームからだった。

パソコンの先にいる名前も分からない他人が操作するキャラクターと交流ができる。最初は一緒に敵を倒したり、ゲーム内のことについて雑談をする程度であったが、そのうち操作している相手に興味が出てきた。


何歳くらいなのか。

普段は何をしている人なのか。

そもそも男か女なのか。


ゲームの中だけの会話ではなくて、直接プライベートなことも話したいと思った。

それはこの世界では難しいだろう。それに同い年くらいの相手が都合よく見つかるとは限らない。

小学生かもしれないし、親の年代であっても不思議はない。漠然としたそんな思いの中で、ある日何気なくパソコンの検索サイトで『メール友達』と入力してみた。


検索の結果色々なサイトが出てきた。

どれも怪しそうに思えた。

それに結婚していることの罪悪感も手伝って、祐一の手のひらに汗がにじんでくる。

とりあえずトップに表示されているサイトはそれだけ利用者も多いだろうということで覗いてみることにした。


サイトの見方が分からず、犯罪に巻き込まれるのではないという変な不安を祐一は感じた。

画面の左端にある『検索』と書かれているアイコンをクリックすると、詳細情報を入力する欄が登場した。

まずは何も打ち込まないとどうなるのだろうと思い、そのまま検索を開始して、募集している女性を探すところまでたどり着いた。


結構いっぱいいるんだなというのが最初の印象だ。

このうちサクラは何人いるのだろうかと警戒することで、自分は引っかからないぞとささやかな防御してみる。


上から順番に表示されている女性のプロフィールを見ていく。

10代から50代まで幅広い女性が参加していることに少し安堵した。

ただ13歳とか見ると、本当の友達を探しているのだろうがちょっと無防備すぎないかと少し心配する。

ちゃんと男を見る目があるのだろうか。こういうところに書き込む男は純粋な友達を探していない人が多いはずだと心の中で説教をしてみた。


祐一はあと数年で30歳を迎える。20代前半で結婚したので、そこから5年が経過した。仕事はインターネットのプロバイダーを当社で契約してもらうための営業活動をしている普通の会社員だ。


結婚して一年後に妻とモデルルームを見に行ったのがきっかけで東京都の江戸川区内のマンションを購入した。

江戸川区は公園も多くて住宅が密集していた。まだ幼い息子がいるため、このような住みやい環境を気に行ってはいるが、東京という響きが少しくすぐったく思えた。

祐一の中で東京というと、ビルに囲まれたオフィス街やお店が出店先を競いあうように集まっている場所を想像する。

江戸川区はそういうイメージとはちょっと違って、ママ達が幼い子をつれて公園の噴水で水遊びをしている姿が似合う町だ。

すぐ隣は千葉県なので、ここが千葉県だったら違和感がなかったのにと勝手な偏見を持ったりもした。


メール相手を募集している人の中から、同じ東京都在住で年齢も20代後半の女性を三人絞り込んでメールを書いてみた。

何て書けばいいのかよく分からない。とりあえず相手の募集メッセージに対しての返事と自分の趣味を書いて送信してみた。

しかし、夜になっても三人から返事が来ることはなかった。

ここで自分の甘さを知った。


きっと女性は募集をかけると何百人単位で返信がくるのであろう。

その中から自分が選ばれる確率はわずかだ。

三人に送ることですら、三股をかけるような感じがして少し失礼な気がしたのに、それでは少なすぎたのだった。


翌日から祐一は20代前半から30代後半の女性で関東在住と、対象を広げてメールを送った。

もちろん誰でもいいというわけではなく、募集の文章がしっかりかけている女性というのが選考基準だ。

それを三日続けたところで、やっと一人から返信がきた。

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