8.再開のオッドアイ

 

 「では今から会議を始める!」


長机を手の平で叩くと、怪訝そうな顔でこちらを見つめる二人に言い放った。

今回招集した二人というのは、イーラとカロル。


 「何の会議だ?」


そう言って不機嫌そうに睨んでくるが、こいつはこの顔が通常運転だと知っているので、そのまま返す。


「この森と村をよりよくするための会議さ。 名付けて、第一回森村会議とでもしとくか」


言った後で自分のネーミングセンスの無さに絶望したが、会議なんだしこれぐらいが妥当だろうと自分をなだめた。


 「面白そう! それって私達で決めていいの?」


いつもはこいつの我が儘に振り回されたりするが、こういう時は、単純で子供っぽいイーラの率直な意見が有り難い。


「ああ、とりあえず、村に足りない思うものとか、どんどん言ってきてくれ」


一見、内輪での茶番にも見えるが、貿易商として村の物資の管理を行う魔女長のイーラ、代々村長の側近として時には副村長も務める一族のカロル。

この二人は、これでも村を支える重要な役割を担っているのである。


 「この村に足りない物といえばお風呂でしょ! 私なんて自宅に水引いてお風呂沸かしてるんだよ!」


よし、後で見に行こう。


「沸いてんのはお前の頭だろ。 お前の女子力アピールなんてどうでもいいんだよ...」

「せめて共同浴場みたいのでも作ってくれていいんじゃないの?」

「家に水引くなんてめんどくせぇことするぐらいなら、潔く川の近くでドラム缶風呂にでも入ってろよ...」

「さっきからいちいちうるさいよ! そんなんだとあんたの姉さんにも嫌われるよ!」


さっきから聞こえないふりをしていたイーラも、さすがに悪態ばかりついていたカロルに怒った。


「うちの姉貴は関係ねぇだろ! お前こそ会議なのに大声だしてんじゃねぇよ!」


お前もだろとツッコミたくなるが、ここはスルーでいこう。

相変わらずカロルは口が悪くて女心がわかってない、というか単に喧嘩っ早い。 そのせいでこの二人が自分の意見を言い合うといつもこんな感じになる。 決して滅茶苦茶仲が悪いというわけでもないのだが。


 「まあ確かに、人工が増えてきてたらそういう施設も必要だと思ったから、考えておくよ」


イーラの言う通り、いつまでも川やドラム缶で風呂を済ませたりするのはさすがに遅れすぎている。

そのような施設もいずれは造るべきだろう。 だが、造るための建材、労力、時間など、さらには設計のための技術やセンスも必要になってくる。 造ろうと思って簡単に造れるものでもないだろう。


 二人の喧嘩を止めると、今度はカロルが話し出した。


「俺はとにかくこの屋敷をどうにかしてほしいね。 今会議してるこの場所だって、客間の机と椅子を即興で並び替えただけだし、玄関のすぐ隣じゃねぇか...。 外から丸見えだぞここ」


そう、この屋敷には会議室の類はない。 何故なら、今まで会議なんてことはしてことがないからだ。


「会議とか重要なことをするなら、それに適した部屋を造るべきだろ」



 その後も、二人の愚痴に近い意見は続いたが、結局実用性があるとまとまったのは最初の二つぐらいだった。 


 浴場の建設と屋敷のリフォームか...。

会議で決まったことについて考えながら部屋の整理をしていると、俺一人になって静かになったはずの空間で、聞き慣れない音が聞こえてきた。

 一旦手を止めて耳を澄ますと、それが2階へ続く階段の中から聞こえていることがわかった。

部屋の隅にある空きスペースへ行ってみると、案の定階段の裏に見慣れない扉があった。

こんなところに部屋なんてあったか...? と、疑問に思いながら扉を開けた。


「ん? ちょっと、今良い所なんだから開ける時はノックぐらいしてよ!」

「あ、すみません...」


 注意されたので咄嗟に謝って扉を閉めたが、冷静にもう一度考えてみると、あの狭い空間で見慣れない人物が生活しているのは明らかにおかしい。

 あれが人間でいうニートやら引きこもりとかいう類だろうか。 それにしても何で屋敷の階段の下にニートが住んでいるんだ...?

今度は思い切って扉を開け、その謎の人物に向けて怒鳴った。


「おいお前! ここで何をしている!」

「だから今は...」


読んだいた本を閉じて振り向いたそいつは、もう一度俺を追い返そうとしたのだろうが、俺の姿を見て絶句した。 しばらくの沈黙の中、そいつが聞いていたラジオの音だけが虚しく響いていた。


 ラジオを止めると、ついにそいつは口を開いた。


「や、やあナイト君! 久しぶりだね!」

「誰だお前」

「えええぇぇぇl!?」

「僕だよ僕! 僕達昔友達になったじゃないか!」

「お前みたいのと友達になった覚えはないが...」


やけに馴れ馴れしく接してくるそいつに俺は冷たく答えた。


「じゃ、じゃあこう言えばわかるかな...?」


彼は結んでいる長髪を後ろに回すと、立ち上がって言った。


 「私はウルド・アルバトロス3世! 闇の深淵に煌めく孤高の魔導士だ!」


その厨二感溢れる台詞と、さっきまで前髪ではっきりと見えていなかった特徴的なオッドアイで、俺の中のどうでもよかった記憶が呼び覚まされた。


 「あぁ、確かにそんな奴もいた気がするが...もう100年近く前の話だぞ...?」


そう、どこかで見たことがあると思ったら、かつて養護施設にいたオッドアイの異端児だ。

 今思えば、こいつの銀髪も、以前に増して華美になった気のする真紅のローブも、第一印象だけで変わり者とわかるあいつにそっくりだ。


「まさかお前...本当に魔族の類だったのか...?」


さすがに100年近くたってまで再び前に現れると、まずはそれを確認する必要がある。


「いやいや、まさか! あの時はただかっこつけてただけだよ。 まあ、あの後魔導士になったから、見てわかる通り、普通の人間じゃあないんだけどねー」


 見た感じだと、10代後半ぐらいだろうか...? 髪は伸ばしたようで、シルクのような銀色の長髪を赤いリボンで軽く結んでいるが、あの時の美少年をそのまま成長させたような見た目だ。

ということは、魔導士になって不老不死の秘薬か魔法でこの姿を保っているのだろうか。

いくら考えても謎が深まるばかりだった。


 「なんかもう...お前どこまでが本当かわかんないから、とりあえず俺の部屋に来い。 詳しい話はそっちで聞く」


この場所じゃ狭すぎるので、そう言って場所を移動することにした。

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