第14話
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(…暖かい)
(…なんだろう)
(ふわふわと、心地いい…)
暖かい何かに縋るように手に力を込めると、暖かい何かはどこかへ行ってしまった。
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*
「…目が覚めましたか」
開いたばかりの目を何度かゆっくり瞬きをさせてから、声のする方に目を向ける。
そこには見たことのある人物がいたが、何故この方が自分の目の前にいるのか意味がわからず、その人から視線を外して室内を見回す。
…ここはどうやら自分の部屋のようだ。
だが部屋にはもう一人、いるはずの無い人と…この方達の従者なのだろうか。
うちの従者ではない燕尾服の人と、帽子を目深にかぶった人がいた。
「…何故…アラム様とシン様がここに…」
言葉にしながらも慌てて寝たままの体を起こそうとするが、思うように体が動いてくれない。
「…無理せず寝ていて下さい。ジーク様はもう1週間近く魔力低下症で寝たきりだったのですよ」
起こしきれなかった体は、シン様に肩を押されるようにしてまたベッドに舞い戻った。
「…申し訳ありません。アラム様とシン様にお目にかかれたとういうのに、このような体で…ご無礼をお許しください」
「そんな…私たちはジーク様の容態が悪いと知って来たのです。だからお気になさらずに体を休めてください」
シン様にそう言われたが、ジークは逆に不思議に思ってしまった。
隣国で多少国同士の交流はあるといえど、ジーク自身とアラム王子達との交流は今まで一切無いと言って等しいはずだ。
アラム王子やシン様は有名な方だからジークは一方的に知ってはいたが…ジーク自身は第一王子では無いし、国交の場に自国の代表として出ることなどほとんど無い。
雲の上の存在のようなお二方が自分を知っていたこと自体不思議だというのに、自分を見舞うためにわざわざ来国しただなんて…全くもって信じ難かった。
「…何故…アラム様やシン様が私なんかの元に…」
動揺を隠せずに揺れた瞳でアラム王子を見ると、隣国特有の真っ赤な瞳にかち合う。
無機質なようでいて芯の通った強さを感じるその瞳は、写真や映像で見ていた時も迫力があると思っていたが、実際に目の当たりにすると想像以上の迫力で、その瞳に吸い込まれてしまいそうな気持ちになった。
「…魔力低下症に陥ったそうですが…相当無理な召喚を行ったのでは無いですか?」
淡々としたアラム王子の言葉。
その言葉で今まで2人の突然の登場で自分の頭から消えていた、倒れる前のことを一気に思い出す。
突然消えたシノ。シノを再召喚したかったのに、儀式をしても魔方陣すら現れてはくれなくて…
「……っ」
(祭壇でやったのに、やっぱりダメだった…)
やっぱりシノ様が、拒んでいるのだろうか。
ぐっと目頭が熱くなり、手で顔を覆う。
言葉に詰まったジークを、2人は急かすことなくただ黙って落ち着くのを見守ってくれたので、ゆっくり心を落ち着かせてからジークは顔をあげ、2人に向き合った。
「…私はずっと、アラム様とシン様にお会いし、お聞きしたいことがありました」
「…何ですか」
「シン様はどうやって、元の世界へ戻ることができたのですか?」
ジークの問いに、シン様は一度伺うようにアラム王子の顔を見た。
だけどアラム王子は特に反応することはなく、シン様はジークに向き直り、その問いに答えてくれた。
「…あの日、私はこの世界に来ない方が良かった、この国に自分は必要無いって強く思ったんです。そしたら魔方陣が突然現れて…気づいたら元の世界に戻っていました。
神子様については各国によって解釈の違う部分もあるようですが…我が国では神子が"この世界に自分はいらない"、"元の世界に帰りたい"と心の底から思うことで元いた世界に帰れると言い伝えられているようです」
「…そう…なのですか…」
”あなたもいらないなら、オレも、オレなんかいりません”
シノの最後の言葉を思い出す。
確かにシノは、自分なんかいらないとそう言って、悲しく笑った。
(…やっぱり…シノ様が消えたのは、オレがシノ様にあんな悲しい思いをさせたせいなんだ…)
溢れ出てしまいそうな涙を堪えるように手のひらをぎゅっと握りしめながらも、ジークは質問を続けた。
「…っアラム様」
「…はい」
「アラム様はシン様を再召喚するために、毎日のように召喚の儀を行っていたと噂で聞いておりました」
「はい」
「…その時、魔方陣は毎回ちゃんと…現れていましたか?」
「……はい?」
アラム王子にまるで聞かれている意味がわからないとでも言うような不思議な顔をされる。
その表情で、ジークはやはり自分だけが魔方陣が出ないのだと悟った。
「…何度やっても、私には魔方陣が出ないんです」
「魔方陣が…」
「やり方なんて間違えてないのに…間違えるわけないのにっ
もしかしたらもう私になんか会いたくないって、拒絶されてるんじゃないかって…っ」
「…だから無理して、召喚をされたんですか」
シン様が辛そうな顔をする。
シン様はきっと、無理な召喚をすればどうなるのかを知っているのだろう。
アラム王子が優しくシン様の背中を撫でてから、こちらを見た。
「…ジーク王子。あなたも、”召喚”ではなく、”再召喚”をしようとしたということですか」
アラム王子の問いにハッとする。
自分が神子様を召喚したことは、まだ儀式に居合わせた者しか知らないことだった。
他国にはおろか、まだ国民にすら知らせていないことだというのに…
しかしアラム王子の真っ赤な瞳に見つめられると、とても嘘をつける気にはなれなかった。
「…はい。私は2ヶ月ほど前に一度、神子様を召喚しました。
…色々あって公表が遅れていたのですが…その間に、神子様が消えてしまいました」
「………」
「…神子様が帰りたくて帰ったなら、仕方ないことだっていうのはわかってるんです。
それでも私はもう一度だけでもいいから会いたくて…
なのに魔方陣が…何度やっても現れないんです。どうやっても、召喚の儀式をちゃんと行えないんですっ」
堪えていた涙が溢れ、頬を伝う。
慌てて腕で涙を拭っていると、アラム王子からまさかの言葉が返ってきた。
「…魔方陣が現れない理由は…何となくですが、わかります」
「……え?」
ガバッと体を起こそうとすると、やはり体がフラつきすぐにベッドに戻ってしまう。
それでも聞きたい一心で必死に体を起こし、アラム王子の方へしっかりと体を向けた。
「…どういうことですか。教えてください。なぜ私に魔方陣は現れてくれないのですかっ」
「……」
ジークの言葉に、今度はアラム王子がシン様を伺うように見た。
シン様はそれに無言で頷いてから、ジークの方を見た。
「アラム王子からその説明をする前に、確認させて頂きたいことがあります。
…ジーク様はもう一度だけでも会いたいとおっしゃいましたが、もう一度だけ会えればそれで良いのですか。会えたらそのあと、どうするおつもりですか」
そう言ったシン様の顔は、今までの優しい顔つきとは違い、至極真面目な顔だった。
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