第2話

「…ダメです!出血が止まりません!」

「もっとガーゼを!酸素も、早く!」


すぐさま駆けつけた医師たちにより救命処置が始められたが、あまりに傷が酷く、神子様の周りには血溜まりができはじめた。

かろうじて息はしているようだが、意識は無いようで、酸素マスクや点滴の管を取り付けられても痛がるどころか全く動く様子もない。

王家に遣えている国内最高クラスの医師たちが見たこともない程に慌ただしく狼狽えていて、状況はかなり深刻なのだと言葉にせずとも伝わってくる。

すぐにこの場ではできる治療では足りないと判断され、神子様は担架へ乗せられ手術室へと搬送されたが、ジークはそんな様子をただただ見つめることしかできなかった。





「なんとか一命は取り止めましたが、怪我の範囲があまりに広く…頭部にも外傷があり依然として意識は戻りません。まだいつ何があってもおかしくない状態です」

「…何故こんなことに…今まで見たことも聞いたこともないっ」

神子様の一命を取り止めたと聞き、ベッドに寝かされた神子様の枕元に立っていた現国王であるジークの父親は、一瞬だけ安堵の様子を見せたが、またすぐに落胆の表情に戻った。


「…申し訳ございません。私が不甲斐ないばかりに…」

その隣で椅子に座ったていたジークが座ったままの状態で頭を下げる。その顔は誰から見ても真っ青で、今にも倒れてしまいそうなほどだ。


「…お前のせいではない。神子様をべただけで奇跡なのだ。私の目の黒いうちに、神子様がこの国に来て下さるとは思わなかった」

国王は言葉ではそう言ったが…心中は複雑なのだろう。その声色は硬く、会話の間も視線は神子様を見つめたまま、一度もジークを見ることはなかった。


ジーク自身も、頭を下げた時以外神子様から視線を外せなかった。

神子様の体は包帯で覆われていない箇所の方が少ない程に全身傷だらけで、巻かれたばかりの真新しい包帯に、すでに血が滲んでいる箇所まであった。あまりの痛々しさに見ているだけで泣きそうになる。



「…ジーク。あなたは自室に戻って休んでいなさい。儀式で力を使い果たしたのでしょう?このままではあなたまで倒れてしまうわ」

そう言いながらジークの背中を労わるように撫でたのは、王妃であるジークの母だった。

「…ですが…っ」

「もしあなたが倒れれば、医師が神子様から離れてあなたのもとへ付かなくてはならないのですよ?」

「……っ」

誰がどう考えても、今は医師を神子様のそばから離れさせる訳にはいかない。

その言葉は優しくも厳しい正論であった。



「……」

「ジーク。神子様に何か変化がありましたら、あなたが寝ていても必ず叩き起こすと約束しましょう」

「……はい」

王妃の言葉に「よろしくお願いします」ともう一度頭を下げてからジークは部屋を後にした。退出の瞬間も扉が閉まりきるまで神子様から視線を外すことができない。



(…何で、どうして…)

何故神子様はあのような状態で召喚されたのか。

何か方法を間違えたのか?

自分に力が足りなかったから?

まだ魔方陣が光っていたのに気づけなかったから?


何がいけなかったのか。

ちゃんといつも通りにできた気がするのに、どれも至らなかったような気もしてくる。


扉が閉まりきった瞬間、気が抜けたようにジークがふらついたため、すぐさまそばにいた従者が駆け寄り、両脇を支えられながらなんとか寝室へと戻った。


布団に横になっても神子様の事が気になりとても眠る気にはなれなかったが、魔力や体力だけでなく精神力も使いきっていた体は、ジークの意に反してあっという間に眠りにいざなった。

そのまま死んだように眠り、ようやく目覚めた時には召喚を行った日から2日も経ってしまっていた。


何故起こしてくれなかったのか!と慌ててジークは部屋を飛び出たが、目的地に着くとすぐに自分が起こされなかった理由を悟った。



…ジークが寝ている間に、進展は何もなかったのだ。

神子様は未だ、意識不明のままだった。

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