第1章 出会い(1)

 「……」

 よし、切りもいいしそろそろ帰ろう。

 そう思って時計を見たら22時10分だった。

 閉館時間を10分過ぎている。

 俺は慌てて帰る準備をして貸出カウンターへと向かった。

 カウンターではいつも通り司書さんが本を読んでいた。

 「す、すみませんでした、鶴岡さん!」

 俺の声を聞くと、司書は顔をあげた。

 「あら、樫田君……勉強はもう言いの?」

 「はい!いつもいつも申し訳ありません。」

 頭を下げて謝った。

 「いいのよいいのよ、気にしないで。」

 司書がこの鶴岡だったとき、俺たちは決まってこのやりとりをする。

 俺は兼ねてから疑問に思っていたことを司書にぶつけた。

 「その……どうして鶴岡さんは閉館前に声を掛けてくださらないのですか?他の司書さんは決まって閉館前に声を掛けてくるのに。」

 俺が早く帰れば、その分鶴岡だって早く帰れるはずだ。なのになぜ閉館後も追い出そうとしないのか。

 「閉館前に声掛けたほうがいいかしら?」

 司書は質問に質問で返してきた。

 「樫田君……いつも一生懸命勉強してるから、邪魔しちゃ悪いかなって思って。途中で中断するよりも切りのいいところまでやった方がすっきりするでしょ?」

 「それはそうですが……」

 「おばさんのことは気にしないでいいのよ。勉強頑張ってね、おばさん応援してるから。」

 そう言った後、司書はカウンターの奥へと引っ込んだ。

 これ以上居ても邪魔だろう……家に帰ろう。

 大学図書館を出た後、アパートへと向かう途中、奇妙なものを見た。

 「何だこれは……?」

 薄暗い裏道に光り輝く壁が出来ている。

 とても興味深い。

 恐怖心よりも好奇心が勝ち、俺は光る壁に近づいていった。

 壁まで後1メートルといったところまで近づいた時に、壁は突然迫ってきた。

 「へ……?」

 いや、違う。

 壁は膨張しているのだ。

 一辺1メートルの正方形だった壁が膨張し、巨大な立方体になろうとしてるのだ。

 俺は瞬く間に光る物体に飲み込まれてしまった。

 辺りがまぶしくてなにも見えない。

 その後謎の轟音が響き渡り、気を失ってしまった。



 

 「……」

 声が聞こえる。

 「……」

 肩に何か当たっている。

 「……」

 体がゆらゆらゆれている。

 そうか、俺は眠ってしまったのか。

 俺はゆっくりと目を開けた。

 目の前には獣のような耳をした女の子がいた……

 

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