朝から厚く空を覆っていた灰色の雲。教室の窓越しに見上げたそれから、耐えかねたように滴が落ち始めていた。

「雨だ」

「え、嘘」

 小さなひとり言を聞き取った陽汰が、同じように窓の外を見やる。

「あ、うわーほんとだ」

 イケメンが頭を抱えて小さく唸った。その姿は過去に何度も見たことがある。ということはきっと。

「カッパある? 」

「無いよ。お家でお留守番してますよ」

 だろうと思いましたよ。この会話をする度に思うのだが、彼は天気予報を見ずに家を出るのだろうか。よしんばそうだとしても、今日は空を見れば降ることは一目瞭然じゃないだろうか。陽汰七不思議のひとつである。残り六個? それは聞かないで欲しい。

「それはいい子だね」

 カッパの擬人化表現だ。雨から守ってくれる彼、もしくは彼女はきっと包容力が半端ないだろう。

「いやいや、今日は駄々こねるべきだったね。お陰で俺はビショビショよ」

「まぁほら、水も滴るなんとやらって……」

「元が良いから、余計にな」

 黙れイケメン。

「黙ってへらへらしてなきゃね」

「それ一番難しいんですけど」

「だろうね」

「あー、止まないかなぁ。せめて俺が下校してる時だけでも」

 ハッと鼻で笑う。悪い顔、との囁き声は聞こえなかったふりをした。

「どしゃ降りになってしまえ。その横を悠々とバスで通ってやろう」

「ひでー、マジでひでーよそれ」 

 両手で顔を覆って泣き真似を始めた男子高校生。そんな彼が雨の中自転車を爆走させる姿を想像すると――過去に何度か見たことがあるのでたやすくできる――思わず笑みが浮かんでしまう。わぁ、陽汰ったら青春してる~。

「陽汰」

「ん? 」

 泣き真似をやめた友人に、親指を立ててやった。

「グッジョブ」

「わー、いい笑顔ー」

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