昼休み
昼休みが始まってしばらく、多くの生徒が持ってきた弁当を片付け始める頃、僕はプラスチック容器の上を覆う銀紙を剥がしていた。
「ぱらっちゃんプリン好き? 」
既に弁当を片付け終わっておる彼が、机に頬杖をつきニヤニヤ笑いながら訊いてくる。
「ん? まぁ好きだけどなんで?」
銀紙の下から現れた黄色の滑らかなそれへと視線を下げて答えた。小さなプラスチックのスプーンを取り出す。
「よく食べてるから好きなのかなぁって」
「あぁ」
そういう意味ね。と続く言葉を省略し、僕は勢いよくスプーンを突き立てた。弾力のあるそれを下のカラメルごと掬い上げ、口に含む。とたんに広がる甘さとほのかな苦味に、思わず頬が緩むのを自覚した。
「今日コンビニ行ったら新作が出てたからさ」
一口食べ終えたところでようやく弁明めいた返答をする。目の前の彼はニヤニヤをより深くしていた。
「んふふ、みーちゃん可愛い」
「お前、ガチでキモい。友達やめたくなったよ」
考えてみれば、三日に一度は彼と友だちであることをやめたくなっている気がする。
「友達だとは思ってくれてたんだ」
しかし、こう返されれば面白くはない。
「……陽汰は僕を友達だと思ってないんだ。ふーん、そっか、僕の片思いか……」
冗談で言い返すと、彼は異常に目を輝かせ身を乗り出してきた。
「ぱらっちゃん……!」
感極まった声とは、こんな声のことを指すのだろうか。二口目のプリンを食べながら、そんなことを考えてみた。彼の言葉は止まらない。
「そんな事ないよ。俺、ぱらっちゃん大好き。てか愛してるし」
本気で友だちやめようかな。
「おえっ。やめて、まじ吐きそう。おホモだちなら他を当たって下さい。お願いします金原(カネハラ)さん」
「おホモだちじゃねーよ。俺は! ぱらっちゃんとは親友だと思ってんの! 」
窓際、教室の隅で見つめ合う僕ら。辺りには日の光に当たって輝くホコリが舞っている。
「陽汰…………」
ぱらっちゃん。と口の形だけで彼も言う。小さな沈黙。
「まぁまずはお友だちからお願いします。プリン食べる? 」
「あ、振られた気分。でもプリンは欲しい」
「一口な」
一応の牽制を入れてから、容器とスプーンを渡す。
「りょー」
そう答える彼の向こうには何故か、瞳を輝かせた女子生徒が見えた。
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