第7話 未完のメッセージ

 「何だい、ユウレイ絵画の噂について、我がオカ研の見解でも訊きに来たのかい?」

 「いえ、例の呪われた本、最後の4行について、私たちの見解を聞いていただきたく、参りました」

 「ほう、それは是非とも」

 他の生徒は皆、部活や自宅に向かった後で、2年B組の教室内には、如月と冬子、玲子だけがたたずんでいた。

 「まず、前提として、この作品の作者であるアイスクリンさんですが……」

 冬子は、右手に持っていた本をかかげた。

 「彼女は既に、

 「…………」

 如月は、アイスクリンという名を聞いた途端、目の色を変えたが、その彼女の死を突き付けられた今、彼の目はその色を失っていた。

 「馬鹿な……馬鹿なことを言うなよ……!」

 「会長さんの心中はお察しします。しかし、最後の4行の謎を解き明かすためには、このことを伝えなくてはならないと考えました」

 冬子が玲子を一瞥いちべつすると、玲子はゆっくりとうなずいた。

 「どのようにして彼女の死を知ったのかについて、詳しいことはお話しません。きっとそれは、会長さんにとって、もっと辛いことだと思います。だから、話しません」

 「そうか……彼女は亡くなっていたんだな……。あぁ、君の話は信じるよ。そう、か……」

 如月は閉じていた目を再び開くと、真っ直ぐに冬子たちを見据みすえた。

 「僕はたった一人の読者だった。幾千幾万の作品の中で、偶然出会えた名作、それがあの作品だった。更新の止まったあのサイトを見ていると、何とも言えない……言葉にできない恐怖を感じたんだ。僕は、自分であの作品の続きを書いてみようかとも考えた。だが、あの作品を書けるのはこの世で彼女一人なんだということを思い知っただけだった。

 僕は知り合いの出版社と図書委員の力を借りて、あの本を製本化し、ここの図書室に蔵書することにした。自分でも何をしたかったのかわからない。アイスクリンさんに、話題の一つでも作りたかったのかもしれない。前話した通り、書籍化したと、書店に並べることはまだできないけれど、これで多くの人に読んでもらえると、そう、伝えたかったのかもしれない。

 そうか……もう、彼女の作品は読めないんだな……」

 如月は口の端をゆがませ、鼻をすすった。

 「最後の4行、あれはきっと、キサラギさんへのメッセージだったのだと思います。彼女は自分をむしばみつつある病魔から逃れたあかつきには、あの作品を完成させるつもりだったのでしょう。だからこそ、すぐにはわからない、少なくとも、あのサイトで閲覧えつらんしているうちは気づきにくいような方法でメッセージを隠した」

 如月も玲子も、冬子の言葉に聴き入っていた。

 「いつかサイトの更新が止まった時、アイスクリンさんは、キサラギさんがあの作品を書籍化してくれるだろうと考えた。つまり、あの最後の4行は、横書きではなく、

 冬子は、未完の名作の最後の4行を如月に示した。

 如月は、冬子に示されるまま、最後の4行の頭文字を、最後の行から右に向かって読み上げた。

 「た、ま、る、か……」

 玲子だけが、疑問符を顔に浮かばせていた。

 「土佐弁で、もともとは、驚いたというような意味だ……。けれど、アイスクリンさんが伝えたかったのはきっと、別の意味……」

 冬子がゆっくりと頷くと、如月は右手で目元をぬぐった。

 そして、如月は顔を上げると、らした両目で言った。

 「の、もう一つの意味……それは……

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