第5話 如月会長の思惑
「わっ、何だ君たち!?」
眼鏡を掛けた背の低い男子生徒は、教室の外で待ち伏せていた冬子たちに対して露骨な警戒心を示した。
「初めまして。1年の紫月冬子と申します。こちらは同級生の
「手短にお願いしたい。僕はこれから、ある噂を検証するために、オカ研の会合に向かわなくてはならない」
「では、単刀直入にお訊きしますが、本校の図書室にある呪われた本、あの本を蔵書したのはキサラギさんですよね?」
「なっ、何故それを……いや、それがどうしたんだ?」
如月は眼鏡のブリッジに右手の中指を当て、動揺を
「私たちが知りたいのは、何故、あの本を蔵書したのか、ということです」
「待て、待て。どうして僕が蔵書したという前提で話を進めるんだ?」
「違うのですか?」
「君たちはそれを知ってどうしようというのだ?」
「呪われた本の噂、その真相を突き止めたいだけです」
「ほう……なるほど、君か。噂の、都市伝説の新入生というのは」
「へぇ……入学早々、立派な通り名が付いたんだな。
「レイレイ、面白がっているようにしか聞こえないわよ」
「そうさ、あの本を蔵書したのはこの僕だ。ただ、残念ながら、あの本は禁書でも何でもない。ただのホラー小説だ」
「そうですか」
「あぁ、そうだ。実を言うと、僕は噂の
「えぇ、勿論です。もう一つ、本の内容についてお訊きしたいのですが、最後の4行、あれには何か意図があるのでしょうか?」
「君はなかなか鋭いな。僕も気になっていたんだ。あの4行には何かメッセージが隠されているんじゃないかと。本当のことを言うと、あの作品の作者は僕じゃないんだ。ある人が書いた作品なんだが、僕は未だ、あの4行の謎を解けずにいる。もし君たちが手を貸してくれるのなら、あの4行の謎を暴いてくれたのなら、是非そのときは教えて欲しい。それじゃあ、僕はもう行くよ」
如月は冬子たちの返事を待たずに、
「ビンゴだったな。キサラギは、如月先輩だったわけだ」
「そうね。問題はやっぱり最後の4行……。会長さんの
「嘘?」
「えぇ。噂の伝播速度の研究という話よ。真意は例のサイトのコメントにあるように、あの作品を多くの人に読んでもらいたいからに決まっているわ」
「じゃあなんで、先輩は頑なに真意を隠す必要があったんだ?」
「まず前提として、会長さんがさっきの私の問いをどのように
冬子たちは自分たちの教室へと戻りながら会話を続けた。
「真意を話さない以上、会長さんは、例のサイトのことが私たちにばれているとは考えていないはず。すると、蔵書したのは会長さんではないのか、という私の問いから、会長さんは、そのことをばらした人物がいるのではないかと推察する」
「それは誰なんだ?」
「隠し事というのは、可能な限り、他人に知られたくないものだけれど、知らさざるを得ない人物は出てくる。その一人が、図書委員よ」
「なるほど、呪われた本を蔵書するためか」
「そう。あの本には貸出ができるようにするためのラベルや貸出履歴カードがきっちりと貼り付けてあった。会長さんは、図書委員の一人にこの作業を依頼したと考えるのが自然ね」
「そして、その図書委員がアタシたちに
「えぇ。話を戻すと、真意を隠す理由だけれど、会長さんはあの作品を、多くの人に読んでもらう機会を失いたくなかったからではないかしら」
「どういうことだ?」
「もしも、あの本の真実をばらしてしまえば、呪われた本ではないと広まってしまえば、あの本をわざわざ借りて読もうという人、少なくとも、興味本位から借りようという人は減ってしまう。それを
「ん? 真実ではないにしろ、呪われた本ではないということは、先輩自らばらしたぞ?」
「会長さんにはいくつか選択肢があった。真実を話すか、白を切るか、嘘を吐くか。真実を話せば、私たちからそれが漏れる可能性がある。白を切れば、私はどうやら都市伝説を追う者として認知されているようだから、より深くあの本について調べ回り、やがて、真実が明るみに出る可能性がある。だから、呪われた本の噂はフィクションだということにして、私たちのこれ以上の追及を阻止し、同時に、伝播速度の研究なんていう私たちの共感を誘う文句で、呪われた本の噂が消滅しないように
「なるほどな、見事な思考推理だ」
「さて、ここからが本番よ。やることは二つ。アイスクリンさんの素性を探ることと、最後の4行の謎を解き明かすことよ」
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