【26】討伐戦

「ギャワウゥゥッ!!」


 ズガガガッ、ドゴゴッ!! ドンッ! ガガガガガッ、バギドゴギシャメシャッ!!


 あちらこちらから響いてくる衝撃音と唸り声!

 上空と前面、二方からの突進を受け、ドーム状のマジックフィールドに亀裂が迸る!

 しかも、それを支えるはずのアメジスト衛兵隊が……歌声にやられて踏ん張りきれていない!


 さらに、そこへ────!!


「クルアァァァァァァァァ!!!」


 大きな鉤爪を突き出して、ブラックマントが一直線に突撃してくる!


 ズガシャァァァァン!! バリリーーーーンッッ!!


 砕け散るガラスのような音ともに、群がっていたフォレストハーピーごと、マジックシールドの天蓋を突き破る!

 そしてブラックマントは、壊れた噴水にガシッとばかりに舞い降りた。


 その後から一斉に殺到してくるフォレストハーピーたち!

 その目に怒りを滾らせアスタ目掛けて突進してくる!

 こ、これは……ヤバイ!!!!


「アスタくん、目を閉じてください!!!」


 アスタの前に立ち塞がるハインツの声!

 敵を目の前にして、目を閉じろって……!


 戸惑うアスタの耳に、聖騎士たちの声が響き渡った!


「────アークライトフラッシュ!!!」


 キラーンと音を立てて強烈な閃光が弾ける!

 聖なる光を放って視界を奪い、モンスターを怯ませると同時に、悪しき力を弱めるナイトのスキルだ!!

 突然の閃光に、フォレストハーピーたちが苦悶の声を上げた!


「ギュワーッ!!!」

「ギヘェッ!!」

「────スターライトアタック!!」


 ズバシャシュウウッ!!


 3人の聖騎士たちが、噴水の周囲を三角形を描くように突進する!

 突っ込んできていたフォレストハーピーたちは一瞬にして葬り去られ、次々と黒い靄と化して消えていく!

 再びアスタが目を開いた時には、フォレストハーピーたちのほとんどが駆逐されていた。


 あれだけの数を一瞬で────!

 なんという戦闘力、さすがはマルカグラード聖騎士団!!


 しかし、ブラックマントは……!?

 ブラックマントはどうなった?

 周囲を見渡すアスタの目に、傀儡たちの姿が映る。


「グモモモモモモォゥ!!!」


 ドガッ! ガスッ!


「どぶふぉっ!!」

「うわあっ!!!」


 傀儡たちがひび割れたマジックシールドを突き破り、歌声でふらつくアメジスト衛兵隊を殴り飛ばしていた。

 そのままの勢いで、アスタに向かって突っ込んでくる気だろう!


「怒りに我を忘れ、知性さえ失いましたか……」


 アスタの前でそっと呟くハインツ。

 そのショートソードをクルリと構え直すと、切っ先を地面に向けて振りかざした。


「その身を縛る足枷を振りほどき、大いなる御心の下に旅立つがいい!!

 ────ターンアンデッド、フルバレットブーストッッ!!!」


 ザグっとショートスピアを地面に突き立てる!

 キラーンと昇り立つ、真っ白に輝く光の十字架。


「ブホッ……!」

「ブヒィ……」


 その光を浴びて、傀儡たちがバタバタと倒れこんで行く。

 全身から立ち上っていた黒い靄も、瞬く間に霧散する。


 ばあやと……あの、オリーブ色のポンチョを着た少女の傀儡もだ。

 力を失い、フラフラと身体を揺らしている。

 そして倒れこんだ傀儡たちの上に、膝からカクンと崩れ落ち、前のめりに倒れ伏した────。


 ハインツのターンアンデッドで一瞬にして、一体残らず、傀儡たちはあの世へと旅立ったのだ……。


「ヒュア~~~~ルルルルルゥ~~~~~!!」

「はっ!?」


 歌声とともに、背後の空からブラックマントが迫り来る!

 聖騎士たちの攻撃を掻い潜り、いつの間にかアスタの背後へと舞い上がっていたのだ!


 アスタをひと飲みにせんとばかりに、クワッと開かれる大きな口!!

 黒光りする鋭い犬歯に、ビッシリと生え揃った細かな鋭い牙!!!


「────ジャスティスディフェンス!!」


 ガギィィィンッ!!! ヒィィィィィィンン!!


 耳を塞ぎたくなるような甲高い金属音!

 ハインツが素早く回り込んで、防御スキルを発動したのだ!!


 真横に構えたショートスピアが火花を散らし、ブラックマントの噛みつきをガッチリと受け止めている。


「アスタくん、早くヘイトブレイカーを!!!!」


 踏ん張るハインツがアスタにチラリと視線を向けてくる。

 いつも涼し気なその目には珍しく、焦燥の色が見て取れる。

 さしものハインツといえども、この巨大な相手に気を抜く余裕は見せていられないか。


「チャンスだ、アスタくん!!!」


 響き渡るロンフォードの声。


 アスタは膨大なエネルギーのうねりを全身で感じつつ、ターコイズブルーに燃える瞳でブラックマントめつけた!

 今こそ、手にした霊鉱石ラムセス製のショートソード────ヘイトブレイカーの秘めた力を解放する時!


「────ヘイトブッレイカアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!!」

「ヒィィィィィィィキシャアァァァァァァァァァァ!!」


 アスタの声に応えて、ヘイトブレイカーが甲高い叫び声を上げた!


 ヒュオオオオオオオオウゥゥゥゥゥゥゥ!!!


 風が戦慄わななき、大地が震える。

 危機を悟ったブラックマントが、天高く舞い踊る!


「クルアアァァァァァァァァァァッッッッ!!!」


 瞬間、奇声を上げるヘイトブレイカーが、ブラックマントの背後で揺れる黒い靄を、ギュルンとばかりに吸い込んだ!!!


 バキッグシャッメリリリッ! バキドシャグシャバキグボドシュグガガガガガガッ!!!! ドシャァァァン!!


 骨が砕け飛ぶような音ともに、ショートソードに真っ黒な節足がまとわりつき、牙が生え、角が伸び、ウロコから羽毛から獣毛までもが生えていく!

 天高く突き上げた、漆黒にして禍々しい巨大な刃!


 ヘイトブレイカーは引き出された憎悪を取り込んで、闇を断ち切る凶悪な刃に変えるのだ。


「憎悪する者は知るだろう! その憎しみが、己が喉笛を掻き斬る凶刃とならんことを────!」


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