【22】巨木の下で
釣られるようにして巨木を見上げたアスタとシャーリス巡査は、目に飛び込んできた光景に、ドキリとして一歩
真っ直ぐに伸びた太い幹。
森の木々の更に上まで、タコの足のようにうねった枝が四方へと伸びている。
そんな巨木の枝に止まる、大きな鳥の群れ。
……いや、鳥ではない。
「あれはフォレストハーピー……! それに……」
震えた小声でシャーリス巡査が呟き出す。
そしてその中心に佇む大きな巨体に、息を飲む。
体長は3mほどもあるだろうか?
その身を包み込むように、コウモリのような黒い翼を折りたたみ、巨木の枝から逆さにぶら下がっている。
大きな耳と長い黒髪、真っ赤な紅を引いたような赤い唇に、ピタッと閉じた大きな目。
「あれは……あれは……ブラックマント!?」
「お兄ちゃん……助けて……お兄ちゃん……」
傀儡の少女がスッと、アスタに向けて両手を伸ばしたその時!
「放て……!」
バラッ、バラバラバラッ!
「へっ!?」
低くくぐもった男の声と同時、周囲の茂みから巨木に向かって投げつけられる石つぶて!
さらに、ヒュンヒュンと弧を描いて放たれた数本の矢!
石つぶては「ガン、ゴン、カコーン」と巨木の幹にぶち当たり、一本の矢がフォレストハーピーの翼を撃ち抜いた!
「ギャハッ!」
翼を射抜かれたフォレストハーピーが、バサリと翼を広げる。
その瞬間、ギランとばかりに見開かれるブラックマントの双眸!!
「う、ウソだろ!? 目を覚ましちゃったぞ!?」
にわかに、ギャワギャワと耳障りな喚き声を上げ始めるハーピーたち。
5、6、7……8羽はいるだろうか?
バサバサと羽を撒き散らしながら、巨木の周囲を旋回し始めた。
そしてその騒ぎの真ん中で、悠然と翼を広げるブラックマント────!
深淵のように暗い瞳はアスタとシャーリス巡査をしっかりと捉え、ニヤッとばかりに開いた口には鋭い牙が覗いていた。
「ルルルゥアァァァ~~アアァァァァ~~~」
甲高く糸をひくような鳴き声。
アスタの耳の奥を震わせて、グラリと大きな目眩を引き起こす。
同時に胸いっぱいに暖かなモノが広がっていく。
これは……?
ユラ~リと揺れる視界の中、無意識のうちにブラックマントやフォレストハーピーたちの大きな胸に、視線が釘付けになる。
「や、やばい……!!」
ブラックマントの幻惑魔法に違いない!
両手で目を覆い、思わず膝をつくアスタをかばうようにして、シャーリス巡査が立ちはだかる。
「ここは私に任せて、アスタくんは、応援を呼んで!!」
「む、無茶だよ、シャーリスさん!!」
「ルアァァァ~~~~~~~!!」
再び、ブラックマントの甲高い歌声!
身体ごと揺さぶられたような目眩とともに、ブラックマントのその豊満な肢体に包まれたい衝動が突き上げてくる!
昨晩の……シャーリス巡査の胸に、飛び込んだように……!
あの滑らかな肌のぬくもりを、もう一度その腕に……。
アスタの意識がグラグラと揺れている。
そんなアスタに向かってフォレストハーピーたちが一斉に、鋭い鉤爪を突き出して急降下してくる!!
「────ウルトラガード!!」
シャーリス巡査の右手にはめたマルカデミーガントレットが白い輝きを放つ!
それと同時、差し上げたラウンドシールドからブワッと半円状の透明シールドが展開された。
ウォーリアの広範囲シールド防御スキルだ!
ズガガガガッ、ガンッッッ!
「キケェェェッ!!!」
透明シールド一杯に突き刺さるハーピーたちの鉤爪!
だが、受け止められたことに怒り狂ったフォレストハーピーたちが、ドコドゴと鋭い鉤爪で蹴りを繰り出してくる!
「くっ……!」
数に圧倒されるシャーリス巡査が、重みに耐えかねたようにガクッと片膝を付く。
やはり、無茶だったのだ!
しかし────!
シャーリス巡査はキッと目を見開くと、マルカデミーガントレットを煌めかせた!
「はあああっ!!────リフレクトアタァック!!」
ウォーリアのシールド反撃スキルだ!
展開したシールドのエネルギーを瞬時に解き放って強い衝撃を与え、対峙する相手をほんの数秒だけショック状態に陥れる効果がある。
ズドバホォォンッッ!!
「グギャヘェッ!」
「ピギャアアッ!!!」
怒号とともに、羽を散らして悶え苦しむハーピーたち。
ショック状態に陥って身動きが取れない様子だ!
間髪を入れず、シャーリス巡査がクルンと身を翻す!
「闇に帰れ!────セイクリッドリッパァァァァァーッッ!!!」
その手のサーベルが煌々とした光を放ち、シュヒィィンと甲高い音を掻き鳴らす!
剣や斧、鉾などに共通の、切り裂き系攻撃スキルに違いない!!
頭上で藻掻くフォレストハーピーたち目掛けて薙ぎ払うサーベルが、光の弧を描く!
ザシュウウッッ!!!
一閃する白い光!
宙で悶えるハーピーたちを、一撃のもとにまとめて切り裂いたのだ!!
1羽たりとも残さずに!
桜吹雪が如く無数の羽を散らし、フォレストハーピーたちが断末魔とともに黒い靄と化していく。
「す、すごい!!!」
さすがは自警団。
モンスターとの戦いには慣れている。
「はああああっ!! ────トライアングルステップッ!!」
感嘆するアスタを尻目に、流れるような動きでシャーリス巡査が宙に舞う!
そして木々の間を三角飛びで、トントンと巧みに駆け上がっていく!!!
駆け上がっていくその先には────ブラックマントだ!!
一気にケリをつけるつもりか!?
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