【18】傀儡使い

「それより、あの幽霊たちが地縛霊って、ホントに?」

「間違いないね! おそらく彼らは、何らかの力によって霊体化され、その当時に彼らが一番楽しんでいたことを、毎夜ああして繰り返しているのだろうよ。ここは死せる村だ! 地縛霊となったその瞬間から一秒たりとも、彼らの時は動いていない!」


 先ほどまで目にしていた光景……。

 確かにロンフォードの言う通りかもしれない。


 しかしいったい、誰が彼らにそんなことを……?

 しかも村ごと、まとめて……。


「じゃあ、人形は?」

「私の記憶が確かなれば、あの木の人形たちは傀儡くぐつさ!」

「くぐつ……?」


 ロンフォードが言うにはこうだ。


 この世には『傀儡使い』という闇魔法を操る魔物の類がいるのだという。

 傀儡使いは人を霊体化し、その霊体を木の人形に封じることで『傀儡』として意のままに操るのだそうだ。

 有能な傀儡使いともなれば、一度に数体、いや数百体もの傀儡を操ることが出来るのだという。

 一兵団すら築くことも可能というわけだ。


 しかも傀儡たちが傷ついても、霊体までは失われない。

 代わりとなる器────木の人形さえあれば、いくらでも復活することが出来るのだ。

 まさしく、”不死の軍団”を手に入れるというわけだ。


「傀儡使いはね、人の生き血を吸い、それを自らの生命エネルギーとするのだそうだよ。そして血を吸われた人間は、ミイラのように干からびた遺体となり、その魂は地縛霊となるわけさ。さらに傀儡使いは、その地縛霊を傀儡の霊体として利用するのさ! おそらく、この村をくまなく探せば、中央広場で快楽に溺れる彼らのミイラ化した遺体を発見できるだろうね!」


 そう言い放つと、ロンフォードは再びシャベルを手に、土を掘り返し始めた。


「ミイラ化した遺体? それって……なんだか、ブラックマントと同じような?」

「ああ、よく気がついたね、シャーリスくん! さすがは自警団だ!」

「いえ、それほどでも……。それより……」


 シャーリス巡査がとても怪訝そうな表情で、顎に手を添える。

 何かがとても引っかかる、そんな表情だ。


「快楽に溺れる地縛霊の群れ、動く木の人形、そして街道に伝わる昔からの噂。────はたして、ハンナくんのばあやが突然倒れたのは、なぜゆえか?」


 ロンフォードの言葉に、シャーリス巡査がハッとした表情になる。


「ばあやが倒れたのって、ロンさんがダイームアグニヴィッルダエードについて尋ねた時ですよね!?」

「ああ、そうとも」


 事態を飲み込めず、ボンヤリしていたアスタも「あっ」と小さく声を上げた。


「ダイームアグニヴィッルダエードの正体は────傀儡使い?」


「おそらくそういうことになるだろう! この村を支配する傀儡使いならば、ハンナくんにあのような手紙を出すことも、造作ないはずさ!」


 なるほど、筋が通っている気がする。

 しかしだとすると……。


「こ、これって……超ヤバくないですか? 地縛霊も傀儡たちも傀儡使いの手先なら、周囲は敵だらけってことじゃ? それに人の生き血を吸う魔物ってことは……」

「私たちって、傀儡使いの餌に……??」


 シャーリス巡査の呟きに、背中がゾッとしてくる。

 ハンナを使って、上手く自分の縄張りに引き込んだ、というところだろう。


 ……あれ? でも……。

 人の生き血を吸う魔物の支配する村で、どうして、ハンナは血を吸われずに……?


「フフフフ……小賢しい計画じゃないか。なぜゆえにそんな真似をしたのだろうね? 昔から街道をゆく旅人を狙っていたというのに、今度ばかりは自分を殺せるような勇者を呼べとハンナくんを脅し、わざわざ人の多いマルカグラードまで使いに出したのだよ? 回りくどい上に、正気の沙汰とは思えない……クックックッ」


 土を掘り起こしながら、ロンフォードがおかしくて仕方ないといった様子で笑っている。

 なんだか、最悪の事態にロンフォードまで気が狂ってしまったかのように思える……。


「まあ、安心したまえ。彼がすぐに我々を襲うことはないだろう」

「……へ? ど、どうしてですか?」

「ブラックマントがいるからさ」


 ……ブラックマント?

 ブラックマントと何の関わりが……?


「キミたちも聞いたろう? 夕暮れに響いた、あの歌声を。おそらくブラックマントの寝床が、この近辺にあるはずだ! 傀儡使いは我々に、ブラックマントを討伐させたいのさ」

「へ……??」

「でも、そんな強力な魔法使いなら、ブラックマントも倒せるんじゃないですか? 傀儡たちを使えばいいし。わざわざ、あんな手紙で人を呼ばなくても……」


 それに、だったら最初から、ブラックマントを倒して欲しいと言えば済む話なんじゃ……??


「ふむ、たしかにね! おそらく……」


 ニヤッと笑うロンフォードが言葉を途切らせる。


「……おそらくは、この村に大勢の人間に押しかけてもらいたくなかったのだろうね。これは、私の推測にしかすぎないが……まあいずれ、その理由ははっきりするだろう!


 なぜゆえに自らの力でブラックマントを討伐しないのか、


 また、なぜゆえにダイームアグニヴィッルダエードなどという舌を噛みそうな名前を名乗っているのか、


 そしてなぜゆえに! 大集団を村に呼び込むことをためらっているのか。


 フフフ、あともう少しの忍耐で、私は必ず、その答えに辿り着いてみせる!」


 土を掘り起こすロンフォードの腕に、力がこもる。

 そういえば、どうして墓を掘り起こしているんだろう??



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