第2話

「また、あのアーチャーが魔王軍を退散させたぞ!!」

「ヒューッ!正義の味方は遅れる、ってのはあの人にあるもんだな!」

「はっ、手柄を横取りする只の泥棒だろうが」

「プーッ!魔王軍に尻もち着いて、命乞いしてた、負け犬の遠吠えね。ウケルww」

「ミナガ!てめぇ!」

本日、アクセルから遠く離れた町で、魔王軍を退いた。後のちょっとした、ギルド内の宴会。

俺はカウンター席で一人、チビチビとソーダを飲んでいる。

はぁ、スゲェ痛い人だな。同じ世界からの転生者からしてわ。

異世界に転生してから、早、半年。

俺は、農業クエや土木クエなど、地味な物からコツコツと、成し遂げて今では三十後半のレベルになった。

職業は変わらず、アーチャーのままで弓と矢を持ちながら街を転々としている。

別に魔王軍討伐が目標じゃない。只単に、旅がしたいだけ。

今日のだって、偶然立ち寄って、緊急クエストという事で参加したに過ぎません。

放送掛かっても寝てました。

戦闘始まって、三十分後に目が覚めて、呑気に道を歩いてたら、ギルド関係者に引っ張られて連れてこられただけです。

……調子乗って、2カ月前、魔王軍討伐に参加するんじゃなかった。

アクセルより少しレベル高い、街で巫山戯で参加したら、矢が当たるわ、当たるわ。

標的にされて、面倒くさくて、ビビらせようと、《クリエイトウォーター》を応用して、矢先に留めて、アンデットに放ったら、一発で消えました。

そしたら、数の暴力で叩こうとしてきましてね。

《クリエイトウォーター》が使える理由は、少し魔力が向上したので、初級魔法程度は使えるようになりました。

それからと言うもの、行く街先に魔王軍がストーカー並みに狙ってきます。

はぁ、と溜息を吐いているとクイクイと服を引っ張られた。

下を見ると、ロリとショタがいました。

「どうかしたの?」

「お兄ちゃん、街を護ってくれてありがとう!」

「これは、そのおれい!」

無邪気な年齢に相応しい、笑顔。

手渡されたのは、ドングリに似た手製のペンダントだ。

「ありがとうな。大事に使うよ」

尤も、効果は何もないがな。

「おにいちゃんみたいな、ぼーけんしゃに、僕はなりたいな!」

バイバイと前も見ずに、冒険者であるお父さんのところに、行った。

……ありがとうか、俺の責任かもしれないのにな。

一人、執着が凄いキメラがいたな。

アイツ、殺しておけば良かったわ。人間型のキメラ初めてだったから、ツイツイ、遊び心で、ワザと仕留め損なってます。

いや、何でもくっつくから兵器とかあればさ、少し面白くなるかもとか、思っていたりする。

うーん、殺すか…………………けどな、そんな姿見てみたいし、魔王軍の理性ある奴ら、ネジ緩いから弄りたい。

………………………仲間になるしかないのかな?

そうしよう、正義の味方だけじゃなくて、悪者もいいかも。

それに、ストーカー無くなるよな。

あ、弄れる奴らを俺の部下にできるかも。

よし、決まり!別に仲間じゃなくて、組む的な感じでいいだろ。

悪魔相手だから、対価はあるかもしれんが。

席を立ち、出口へと向かう。

「《疾風》。何処かにまた、行くのか?」

「悪魔弄りに行ってくる」

「戦闘合ったばかりなのに、ご苦労だね。」

「勘定はここに置いておく。釣りがあるなら、宴会の代金に回して」

「毎度ありがとうございます。………………足しにする金額、百エリスしかない」

大金の釣りは俺、受け取るよ?

クエで稼いだ金は貯金してるし。

今日の報酬もソーダ代しか残してない。

さて、夜空に浮かぶのは真ん丸、お月様。

兎が跳ぶ月。じゃあ、俺は何が飛ぶのかな?

街を離れて、俺は森の中をチート敏捷と身軽さを利用して、三十~四十分の間で、森の中心の渓谷まで来ていた。

走ってるのでどうしても、咽は渇いてしまう。周辺住民に寄ると、ここは疲労を回復させる不思議な水が湧くそうだ。

下流に行くほど、その効力は落ちるという奇妙な性質がある。大方、魚が水を含んだ時に、魔力を摂ってしまうのだろう。

やたら、魚料理が美味なのはそれのせいだろうな。

お椀を手で作り、掬って水分補給。

「ああ!!生き返る……、やっぱり水は偉大だな!」

「なら、その水分補給を最後に黄泉へと向かうが良い!」

渓谷の反対側から声がし、藪がガサガサとゆれて出てきたのは、暗闇だと間違いなく、視覚できない黒魔道士の恰好をした十六くらいの少女が出てきた。

そして、決めポーズで、右中指で眉間を抑え、杖は前に出し、俺の目を真っ直ぐに射抜く紅目。

「我が名はみるるっぺ。紅魔族の裏切り者にして、上級魔法を操る者!魔王軍の援護隊長なる者!佐々木みやび!貴様は、我が魔法で破滅する定めなのだ。覚悟を決めるのだ!『エナジー・……』」

「いきなり、人の命を終わらせるな!『氷矢』!」

みくっぺとか巫山戯た名前の持つ、杖を落とすために、放った矢は殺傷能力のない、当たればかなり痛い、平な氷を先端に付けた矢である。

「痛い!」

手の甲に見事的中して、杖はポチャリと下の川に落ちた。

ガクリと項垂れる紅魔族(裏切り者)。

どうやら、コイツは杖が無ければ、魔法を使えないようだ。

杖って確か、補聴器とかそんな類と同じなんだよな。酸素を作る時に加える触媒的な?

ファンタジー世界に化学出しちゃったよ……。

未だに、顔を地面に埋めたまま、動かない紅魔族の女の子。

そして、流れに逆らうことなく、ドンドン距離が開く杖。

川を文字通り飛び越えて、傍による。

「もしもし?杖、流れていくけどいいのか?」

「……んた、……い……のだ」

「何だって?」

「アンタが取りにいくのだ」

「はあっ!?」

「私は紅魔族の中で随一に泳ぎが下手なのだ!川を泳ぐなんて、死にに行くようなものなのだよ!!」

ガシッ!と服を掴まれる。

「あ、この!離せ!裏切り紅魔族!俺が取りに行くとか、あり得ないだろ!正当防衛だろ!?全身が炎に包まれて、火達磨なんてごめんだからな!」

本当に只の魔法使い、じゃなかった!コイツ、魔王属だった!

乱暴でいい、引き剥がす!

と思ったときには遅く、両足を両手で拘束される。柔らかい感触が刺激するが、堪能してる場合じゃない。

「うをやああああああ!!」

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああァァァァァッッッーーーーー!?」

ハンマー投げ選手は俺よりも、重い鉄球を投げてるんだよな。

魔法の使えるこの街に来たら、岩石レベルの球でも飛ばせるのかな?

現実逃避をしながら、俺は川をドンブラコと流れる杖に手を伸ばしながら、ダイビングを体験しました、まる。

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