4
見渡す限り人で溢れかえっていた。
いや正確には人であり、獣である人獣だ
右を見ればゴリラ。左を見れば鳥人型。後ろを見ると爬虫類型。斜め右は大きな角から察するに鹿型かな? 前はいったいなんだろう? 見分けがつかないが匂いが生臭いことから、魚なのかもしれない。
魚類とかも居るのか? エラ呼吸とかはどうなんだ? とかも思ってしまうが、しかしアヴァロンの話からすると普通にゴロゴロ居るらしい。もっとも本能なのか水辺を好むらしい。
国境を越えた先にある国オーベル。ここはその検問所。周りを石壁で囲まれ頂上には歩兵みたいな人獣が歩いている。
入り口は大きく分厚い鉄扉で閉ざされ、大きな時計塔が見える。鉄扉の少し前には槍を持った兵士が数人待ち構えているのが分かる。恐らくそこが検査所なのだろう。検査官らしき人物達がどんな異変も見逃さないと鋭い目で眺めている。
検査所の前には検査待ちの人獣が列を成している。
おやっ? と疑問に思ったのは、あの電車にこんなにも人獣が乗っていたのかと思った。
確かに枕投げならぬ、荷物投げをしたのは私達や車掌を含め二十名前後だった。その時の顔ぶれも見かけ手を振っている。駅に降りた時私が一番に降りたのだから、大体の人数は把握している。おそらく百名もいなかったはずだ。それが今は軽く千を超えているだろう。
疑問を感じ取ったのか、アヴァロンが教えてくれた。
「ここに居るのはあの電車に乗っていた者だけではありません。他の者も混じっています」
「他にも電車があったのか?」
言われてみて、確かに駅には何両か電車を数えられた気がする。
「駅で他の電車が見えましたね? 彼らは私達とは違う人間界の場所から来たのです。乗り物は電車だけではなく、船や飛行機。個人用に車やバイク、中には夢力で自力で行く者がいたりします。最も自力で行く者は相当力が強くないと駄目ですがね」
そして、とアヴァロンは自慢げに付け加えた
「私達は自力で人間界を自由に出入りできる位の力の持ち主ですよ」
「つまりその位の上位の観察者が俺を見張っている訳ね」
その説明で改めて自分の立ち位置が理解できた。
私の力はかなり危険視されている。そして早めに百八つの夢を解決しなければ、私が本当に迷い蛍になり世界が滅びることを。
しかしできるのか? 私に他人の夢を叶えることが。
この世界を救うことができるのか?
少し不安げな気持ちになり、そんな気持ちを読んだのか、アルテミスが私に喋りかけようと口を開きかけた。しかしその途端に大音量の大声により遮断された。
「この中に漂流人はいるか?」
胸が早鐘のように高鳴った。
あまりにも突然過ぎて呼吸ができなくなりそうだったが、何とか持ちこたえて声を上げた。
「私が漂流人です」
先程まで賑やかだった声が聞こえなくなり、辺りが静まり返る。
当然なのかもしれない。この中には初めて目にする者も居るのだろう。
もし人間界で人獣が発見されたら、私だけでなく他の人間もきっと驚き、客寄せパンダ。もしくはモルモットが相場だからだ。
しかし不思議と彼らを信用していた。たとえあの二人が私を騙していて、ナイトメアに連れてくる為だったとしても決して怨まないだろう。
なぜなら二人を、いや人獣達を嫌いになれないからかも知れない。
他人が聞いたら馬鹿なと思うかもしれないが、短い時間を付き合ったもの同士にしかわからないものかもしれない。それでも良いと思い自分の荷物を持ち前に出て行く。
人獣達の刺す様な視線が突き刺さり、痛かった。
だけど守るように私の隣には観察者の二人が居てくれて、なんだか逆に誇らしげに胸を張り前を向きながら歩くことができた。
検査官の前に辿り着き胸を張り、堂々と答えた。
「私が漂流者ですがどんなご用件でしょうか」
「他に漂流者はいないか」
その声にぱらぱらとあちらこちらから答えが返ってきた。最終的には六十六人もいたことが判明した。
私だけなのかと思っていたが、こんなに居るとは思わず正直驚いた。
……しかしがっかりとしたこともまた事実だ。私のように堂々と名乗りを上げたのは数名しかおらず、またその人達を責める気も起こさない。
なぜって、ほんの数時間前までは私も彼らの側に所属していた為である。
彼らは他人が自分より先頭を切り、まったく新しい事を始める人間は無謀だと非難して、真似はしないが、それがいざ成功して金の生る木だと証明されれば、我先にと争いながら他者を蹴落として、進出してくる人間に違いない。そしてやがては先駆者を食い物にして、幹ごと滅ぼし、次の木が生えてくるまで生き延びる宿木だ。
私もその事を知りながら、自分ではどうしようもないことも理解している。何をするにも結局は自分自身の力で行なわなければならないからだ。
性格は変わらないかもしれないが、考え方を変えることはできる。他人の言葉や行動でその切欠を作ることはできるが最後は自分自信だ。
自分の中にしか答えは無いのだから。
今の私ならばもう心配は要らないだろう。自分が変わるチャンスを手に入れたのだから。
検査官はまたもや大きな声で同じ言葉を繰り返している。
さすがにでかい体にやかましいボリュームなので、周りの人獣達も迷惑そうだ。
「そんなに大きな声では皆が萎縮してしまいますよ。何より疲れます」
検査官はそんなことを言われるとは思わなかったのだろう。驚いた顔をしている。
「気を悪くしたのなら誤ります。ですが確認する時の声のボリュームはもう少し落としたほうが好感が持てますよ。せっかくの男前が台無しになります」
「がはは。悪い悪い。そんなことまるで考えていなかった。そんな台詞初めて聞いた」
検査官はそう言って、豪快な笑い声を上げながら肩を叩いた。
軽く叩いたつもりなのかも知れないが、かなりの鈍痛が走った。喋り方から察するに根は良い奴かもしれない。
「うほん。えーではこれ以上は居ないとみなし、漂流人の登録を行なう。漂流人は一列に並んでくれ」
皆がそろぞろと不安で声も上げられない中、それでもなんとか列を作り始めた。
「あーあんたが例の漂流人だろ? 並ばないでいい。そのほうがこっちもやりやすい」
検査官は私の観察者をちらりと見て、次に顔に似合わない可愛げな表情を作り、潰れていない片目を向けながら愛嬌のある声で語り、壇上に飛び乗った。
「では今から説明を行なう。二度説明をするのは面倒なので心して聞くように。えー紳士&淑女の皆様方、本日はナイトメアの国へようこそ。ここは人間界とナイトメアの国境にあたるオーベルと言う国です。そして私がここの検査官を務める副所長のヘシオドス・ミュラーと申します。えーと紳士淑女の皆様方は人間界で死んだか、今現在死にそうな方々達で強い夢を願った存在です。その内容は本人以外知りません。ですがあまりにも強く願ったために今現在この世界に居ます。そして貴方達はこれから他人の夢を叶える旅を行なわなければなりません。場所は人間界やこのナイトメアの世界と場所を問いません。なぜなら夢とは曖昧な存在で、それを見つける方法が無いからです。しかし貴方方漂流人だけがその夢を見つけられます。夢は二種類あり、現実夢と睡夢があります。詳しくはこれから能力によるランク分けしますので、その時に一人一人に担当の観察者が付きます。その時にでも聞いてください。そしてここからが最大のポイントです、貴方達が旅をできる期限は今日からきっかり一年間。短くもあり、長くもあるそれは捉え方によって様々です。ですが期間中に任務を果たせなかったら…… そのときは迷い蛍となりその場所で永遠に彷徨い続けます。ですが任務遂行できたならば、その時は貴方のどんな願いでも一つだけ叶えられます。使い方は貴方達しだいです。一度は無くしてしまった命です。チャンスと捕らえて頑張ってください」
言い終わってからヘシオドスは一同を見渡した。皆が驚きのあまり声もでていない。
「えーちなみに貴方方はこの一年間迷い蛍になるまでは死ぬことはありませんが、何点か例外があります。今一番危険な例を挙げると最近人間界で漂流人狩りが増えてきています。我々も組織の力を挙げ全力で対策を練っています。が、それでも事件は起こります。各自の責任で気をつけるようにしてくだ……」
漂流者の挙手により、ヘシオドスの饒舌な口が閉じた。
「そこの貴方なんですか?」
「質問だ。漂流人狩りとはなんだ?」
そう私もそこが気になった。疑問はまだ山ほどあるが恐らく今聞かないとやばいだろう。
ヘシオドスは気まずそうに目をしかめながら答えた。
「……えー貴方達漂流人を付け狙ういかれた輩と言った方がわかるか? 漂流人を無理矢理迷い蛍にしてしまい、それで何かを企んでいるみたいだが、詳しくは判らない」
辺りが途端に蜂の巣を突付いたように騒がしくなった。
当然かもしれない。言わなければいいこともある。しかし素直に答えたこのヘシオスは評価に値する男だと思った。いずれ出会うかもしれない出来事ならば、早めに知っておいたほうが対処できる可能性が高い。
それを見越しての回答だったのだろう。我々はふるいにかけられたのかもしれない。
生き残る可能性はどれくらいかに。
「お前達静まれ!」
突然の大声に皆が不平不満を漏らすのを止めた。
「元々無くした命ならば、もう一度チャンスがあるだけましと思え。がたがた抜かすなら今この場で魂引っこ抜くぞ!」
凄まじい迫力と、空気を振動させながら伝わる大声に鼓膜が破れそうになった。
しかし効果は抜群だった。やはりパニックの人間を黙らせるには時として、怒声が何より一番効果的かもしれない。
「コホン失礼致しました。それでは話が幾分ずれましたが、お役所語りは止めてざっくばらんに語る。私達ナイトメアの住人とこの世界は貴方達を歓迎致します」
ヘシオドスが言い終わるや一斉に蒸気機関車からポーと軽快な汽笛が鳴り響き終えると、金や銀、様々な色をした花吹雪が煙突から、煙や虹色や透明で不思議なシャボン玉と一緒に舞い上がる。そして清らかな鐘の音が辺りに鳴り響いて、音符が文字になり出現して軽やかなダンスを踊っている。辺りの人獣達も参加して持参した楽器や不思議で魅力的な踊りで参加しだした。人獣はひょっとしたら皆お祭好きなのかもしれない。
だとしたら今楽しまないと損なのかもしれない。やがて失ってしまう人生の意味を理解していて、せめて今だけは楽しんでもらおうと、いずれ来るその悲しさを、自分たちの世界のために過酷な任務に赴く私達漂流人を忘れないように、感謝の気持ちを込めてせめてもの罪滅ぼしをしているのかもしれないからだと思えた。
だから今を。生きている今を楽しまなくてはいけない。だからこんな時だけ素直になれる。
「アルテミス俺と一緒に踊ろう」
「喜んで貴方のお相手いたします」
片耳を忙しなく動かしながら腕を腰に当て、片足をクロスさせつつ仰々しく頭を下げながら言う。その台詞と態度はアヴァロンの十八番だろ。
まったく素直じゃないなと苦笑しながら、差し出された彼女の片手に手を乗せ思い切り引っ張ってやった。トランク事件の時は一瞬しか触れ合わなかったが、アルテミスの指はまるで絹のようにしっとりと滑るように柔らかく、吸い付くように包み込む柔らかな掌は温かった。
やはり理想だった女性の手に近かった。そしてどこか懐かしい感じがした。本心は読まれているんだろうなと思う。
そんな邪な事を思いながら彼女の瞳が深い琥珀アンバー色から深紅の瞳に変わった。
おや? 明るいところで見ると色が変わるのかと思ったが、どうやら感情で瞳の色が変わるのだと判った。又一つ彼女のささやかな秘密がわかり、優越感に浸ることができた。
そんな思いが伝わったのか、彼女の顔がみるみる真っ赤に変わっていく。
私も釣られて顔色が赤く染まった。
「お淑やかな女性も悪くは無いだろう?」
そう言い終えるやアルテミスは赤毛を揺らし、急にぴたりと体を密着させてきた。
あぁ、まったくこの女性は相変わらずだ。本当にずるい。
これでは文句の一つも言えやしないじゃないかまったく。そんな気恥ずかしさからか、真っ直ぐに彼女の瞳を見詰め返すことに耐えられず、反射的に目をそらすとアヴァロンのにやけ顔が見えてきた。
……やっぱりあいつはジョーカーだ。それも最強の。
祭りも終わりそれぞれの担当者も決まって、皆どこかに消えていったが、私達だけが呼ばれ別室に通された。
手持ち無沙汰で辺りを見渡すと初めて見る品々が並んでおり、不思議な部屋だった。
四角いガラスに入った七つも目があり時々火を噴く小さな竜。逆さまにしたら砂が流れず小さなおっさんが何人か流れてきて文句を言う砂時計。部屋の片隅では鉢植えの上に雪が降っていてその雪を食べている小さな緑色の鳥。どれもが不思議だった。
「おや? これはこれは、随分と懐かしい。雪粉スノーパウダーじゃあないですか」
「何? 本当か? どれどれ久しぶりに見たな」
二人で懐かしそうに部屋の片隅の雪を見て語っている。私はどれもが始めて見るものばかりなので話に混ざることができず、テーブルの上に無造作に置いてあった本に触れた瞬間に異変が起こった。
途端に不思議な文字が音を立てて浮かび上がり、辺り狭しと駆けずり回る。
??? なんだこれは一体?
「あーそれはレア物ですね。かなり昔に絶版になった本ですよ」
「……レア物?」
「今捕まえるので見ていてください」
訳がわからずに口をあけて見ていると、アヴァロンが本を暖炉に放り投げた。
何をしているのかわからずあまりの衝撃に口をあけびっくりしていると、突然扉を開いて眼鏡をかけた細目の人獣が入ってきた。
「お待たせいたしました。私がここオーベルの……」
途中まで言って眼鏡をかけた男が部屋を見渡す。
拙いことをしてしまったと直感で感じ取り、土下座せんばかりの勢いで謝った。
「すみません。本に触れた瞬間に突然本が開いて、中から変な物が飛び出してきてそれから後はあそこに……」
とちらりと暖炉に目を向けると、眼鏡の細目もちらりと振り向く。
ああ物凄く彼の大切な本だったらどうしよう。アヴァロンお前のせいだからな。と恨んでいたらああ、それだったら別に構わないですよ。と気さくに話しかけられた。
私はへ? という気分だったが眼鏡の人獣は構わずに語りかける。
「無造作に置いた私が悪いですし、この部屋に案内させたのも私ですし。何より彼らも遊びたがってたでしょうから」
ますます意味がわからないぞ? 大切な本ではなかったのか?
眼鏡の人獣がニコニコ笑っている。
「……あのー」
「辺りをよく見てください」
そう言われ暖炉にくべられた本をよく見ると本は燃えておらず、先ほどまで自由気ままに動いていた文字が先を争って火に飛び込んでいる。そして火に炙られながら文字から羽根の生えた妖精に姿を変えていく。
この世界は不思議な事だらけだ……
「この本は火の中でしか姿を現すことのできない妖精が閉じ込められているんですよ。冬場限定のお楽しみ本って訳ですね。大気中では文字化けして逃げてしまうので、邪魔な存在で迷惑以外の何者でもないですけど、こうして火に炙るとまた戻ってきますので、心配しないでください」
……最初に説明してくれよなアヴァロン! 余計な恥をかいただろ。
その長い耳が途中から盛んに動いていたので、早い段階から足音が聞こえていたはずなのに、教えないで一部始終を冷たい目で笑いながら見ていたアルテミスも同罪だ。
「しかしこうして寒い夜なんかに暖炉の火に入れると彼らも喜んで歌を披露してくれたりするんで楽しいんですけどね。元々それが目的で作られたものですから」
「ただ定期的に火に入れないと反発して、火事を起こすから絶版したのだろ?」
「そのとおりです。元々力の強い妖精ですからね。でもだからこそ逆に私のコレクション魂に火がつきますよ」
細眼鏡は笑いながら答えた。
「そうそう話がずれましたけど改めて。私がここオーベルの所長ジェフェリー・オブ・モンマスと申します。愛称はジェリーです」
簡単な自己紹介を終えて、ソファーに案内され、秘書らしき猪の人獣がお茶と茶請けを出し一礼しながら去りしなに俺を興味深げにちら見して去って行った。そんなに有名人なの俺様って?そんなことを考えながらさてさてここに呼ばれた話を聞くとしよう。
「単刀直入に言います。祭さん一度人間界に戻ってくれませんか?」
「??? 突然ですね何故ですか?」
「事実はいつでも突然ですからね。今回は急を要します。実は先程人間界にて危険値を示す事態が起こりました。幸い一端は収まりましたが、いつ又再発するかわかりません」
こうして話すのも時間が惜しいような慌て口調で一気に話している。
「色々と詳しくお話したいのですが、本当に時間が足りません。残念です」
言い終えるや、ちらりと私の両隣を心配そうに見た。
横では足を組み偉そうに踏ん反り返って、エスプレッソを飲んでいるアルテミス。
ソーサーごとカップを持ち、紅茶の繊細な香りを鼻で楽しんでいるアヴァロン。
その飲み方は男女逆だろ普通。
「ちなみに人間界では、ばれないように翼や耳を隠しますよ」
緊急を要する事態なのに、こんなのんびりとお茶を楽しんでいる観察者だったら、心配するのも当然かもしれない。
所長に助け舟でも出すとするか。
「つまり慌てて急がす、人間界にとんぼ返りしろってことですか?」
細眼鏡と馬男が声を揃えて
「エクセレントです」
とサムアップし言った。 ……こいつら事前に打ち合わせしていたんじゃないか? それともこっちではこれが流行っているのかと疑問が頭をよぎった。
吐息を漏らして右を向くとアルテミスも同じく指をたてて、出されたおクッキーを口一杯に頬張りながら一言。
「えふふぇれんふぉ(エクセレント)」 もごもごと呟いた。
私は部屋一杯にとても大きな。けれど弱弱しい吐息を吐き出し緑茶を啜った。
祭達一行が後を去り静かになった部屋には二人の人獣が残っていた。
アヴァロンよりも大きな体格の男がおもむろに語りだした。
「あの男ならきっと成し遂げてくれますよ。ナイトメアに向かう車内で、迷い蛍の願いを一つ叶えたそうです」
細い線で、学者みたいな風貌の細眼鏡は心配そうな顔つきで依然沈黙のままだ。
「大丈夫です。不肖ながら私ヘシオドスが保障いたします。ジェフェリー所長、漂流人を見る私の眼鏡が今までに曇ったことはありますか?」
ヘシオドスはずいと体を近寄らせ潰れた左目を細眼鏡に近寄らせた。身に纏っていたマントからはワニのような尻尾がこぼれ出した。
「ヘシオドス私が心配しているのは、祭君のことではありません」
「……というと?」
「今はまだ核心がもてないのでなんとも言えません。いずれわかる時がきます。それまでは少し様子を見ましょう」
そう言い放ち、これで会話は終わりだと言わんばかりに、蛇が滑るような動作で窓際に立ち外を眺めた。先ほどまでの穏やかな天気とは違い、降りそうで降らないどす黒い曇天の雲に変わり、随所では青白い雷を轟きながら発しており、青い透明な空を飲み込もうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます