天空の真実①

弓木に手を引かれて、羽ばたきの練習をする。


羽ばたき?

あの、部活でセッセと練習していた羽根を小刻みに動かすあの動きだと思った私は、練習の時の様に動かしてみたが、さっぱり動かなかった。


「アレ?あんなに練習したのに全然だな~」


首をかしげながら悩んでいると、


「違う違う、烏天狗はこうやって飛ぶんだ!」


と言って、弓木は私の手を掴んだまま、ひょい!っと飛び上がった!


手を引っ張られただけなのに、何故かふわりと宙に浮く感覚が足元からするので、ふと足の方を見てみると、既に5mは浮き上がっていた。


「わわっ!?私飛んでる!!」


あの、夢の中で見た時は地面からすれすれにしか浮いてなかったのに、今は本当に空を飛ぶ感覚を感じられていた。


「烏天狗は、羽ばたきよりも羽根自体にある浮力の様な力で空を飛べるんだぜ!」


弓木はとても楽しそうに空を進む。


私はまだ手を引かれているだけだったが、そろそろ自分の羽根の力だけでも飛んでみようと思って、


「ちょっと試しに手を離してみてくれない?」


と、提案してみた。


すると、

「大丈夫か?初めて飛んだんだからあまり無理するなよ?」


そう言って、静かに手を離した。


私は、今、一人で空を飛んでいる。


私の、羽根の力で飛んでいた。


しかし、飛んでいると言うよりは浮かんでいるだけ?と言う状態だったので、どうにも弓木の様に前や上に推進する力が無い。


羽根を、あの練習の時の様にばっさばっさと動かしてみたモノの、全然その中空から移動することが出来なかった。


それを見かねた弓木が、


「あはは、やっぱりね。初心者は誰でもこの状態になるんだよ。」


と言って私の手を掴む。


「とりあえず、飛んでいる時の感覚を体で覚えるまでは、俺の様に飛べる者につかまっていた方がイイ。実際、俺も最初の頃は師匠につかまってばかりいたからな。」


言いながら笑っていた。


私もつられて笑おうと思ったけれども、足元の景色が段々豆粒の様に小さくなっていくのを見たら、全然笑えなくなってしまっていた。


高所恐怖症では無いと思っていたけれど、でも実際に自分がこんなに高い所まで上がって行くと、頭の中では理解しているつもりでも心と体が追い付いて行かない様な、そんな感覚が襲ってきていた。


「大丈夫か?」


弓木が心配そうに声をかける。


多分私の顔色が、かなり悪くなっているのかも知れなかった。


「う、うん。とりあえずまだ大丈夫だけど・・・・」


だけどその後、どうなるか分からないと言いたかったけど、言えなかった。


上空を仰ぎ見ると、すっかり日も暮れて漆黒の闇夜の様な、でもその奥に星々が輝いている空が私の目に映る。


まるで、このまま宇宙の果てまで飛んで行けそうな、そんな錯覚を覚えた。


足元の景色はもう、世界地図の断片の様な、塊のような状態にしか見えなくなっていた。



「そろそろ着くぞ。」


弓木が不意に声をかけた。


かなり時間が経っていたと思っていたが、実際にはほんの十数分と言った所だった。


私の、空を飛んでいると言う感覚や空に対する考えが頭の中でグルグルと回っているうちに、時間の感覚が少々マヒしてしまっていた様だった。


着くぞ?と言われて目線を少し前に戻すと、何かの映画で見た様な島の様なものが見える。


空に浮かんだ島には、神社の本殿のような建物が立っていた。


「あれが本殿?」


「そうだ、烏天狗の血に連なる者は全てあの本殿に行かなければならない。」


そう言う弓木の手に力が入った気がした。


私の手を握る弓木の手が、徐々に熱くなっていくのを感じた。


弓木の飛ぶ速度が不意に加速して、本殿のある島が急激に近づいて行く。


そして私達は、その島に着地した。


島は、遠くから見ていたよりも意外と大きくて、本殿の大きさは学校の校舎ほどもあった。


私は、ぽっかりと口を開けて驚くしか無かった。



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