烏天狗の庭 ③
山頂にある神社に着いた時は、もう空が赤く染まって夜が近い事を教えてくれていた。
「しまった!家に遅くなりますって連絡するの忘れた!」
と、私は慌てて電話をかけようとすると、
「いや、お前の家には既に何らかの連絡が行っているだろう。」
と、弓木が私の行動を制止した。
あ、そうなんだ?と何故か私もその言葉に素直に従っている。
何で?そんなに素直になれているのか?不思議な位だった。
弓木は、神社の本殿に一礼すると、本殿の扉を開けた。
本殿の扉を開けると簾の様なものがかかっていて、弓木が何らかの合図をすると何故か勝手に開いてさらに奥に進める様になった。
一体どういう仕掛けが~?と思って、簾の辺りを通過するときにチラっと周囲を見回してみたら、何てことは無い、簾の近くに簾を上げる係の様な人が待機していた。
意外と人力だったな~?と私は苦笑いするしかなかったけど。
そんな光景を目にしながらどんどん進んでいくと、本殿の一番奥の手前の部屋まで来ていた。
その部屋は、奥の部屋に続くと思われるふすまが目の前にある他は、普通の畳の部屋と言った佇まいだ。
私はそんな部屋でキョロキョロと挙動不審にしていると、弓木が不意に口を開いた。
「お前は、俺の事を烏天狗信仰者だと思っていた様だが、ちょっと違う。俺は、烏天狗信仰者ではなく、お前と同じ烏天狗の子孫だ。」
そう言うと、その背に生える羽根にかけられていたと思われる術を解き始めたのだ。
弓木の羽根は他の皆と同じ様に白くて透き通っていて綺麗な羽根だと思っていたけれども、それ自体が何かの術によって作られていたのだ。
白い羽根はみるみるうちに私と同じように鼠色になったかと思うと、あっと言う間に真っ黒な羽根に変貌した。
そして、他の人類の羽根がちょっと背中に鎮座している程度の大きさしか無いのに、弓木の羽根は鳥の体に付いている羽根と同じ様な比率、つまる所、羽根の一番長い部分が地面に届きそうな程の大きさになっていたのだった。
「本当に、烏天狗の一族は居たんだね~」
私は、このおとぎ話の世界に行ってしまったかのような状況の中にありながら、普通にその事実を受け止めた。
今、この目で確かに見た現実だから、受け止めなければならないとも思ったのだ。
「お前の羽根も、俺と同じ様な大きさになるはずだ。」
弓木はそう言って、私の背後にまわって何やら術の文言の様な言葉をつぶやき始めた。
多分、今まで何者かにかけられていたと思われる術を解いてくれているのだろう。
その呟く様な術の言葉を言い終えると、私は背中がムズムズと痒くなっていく様なそんな感覚が襲ってくるのを感じた。
あんまり普段感じたことが無い感覚だったので、ちょっと足元がふらついて倒れそうになったのだが、とっさに弓木が私の体を支えてくれた。
「あ、ありがとう。」
私がそう言って自力で立とうとすると、背中から森の木々の葉が風に揺られるような音がするのを感じた。
「ああ!」
私の背中には、弓木と同じかそれ以上に大きくて真っ黒な羽根が生えていた。
「これが・・・・・私の羽根・・・・。」
私は、目を疑いながらも羽根に触りながら確認した。
「そうだ、それがお前の真実だ。」
弓木はそう言って、私の羽根を撫でていた。
「あ、あのさ、どうして弓木は私の事をそんなに知っているの?」
ずっと疑問に思っていた。
あの部活の時はやたら毒舌だし、人から嫌われそうなことばかり言っていたけれども、もしかしたら烏天狗の事を知られたくない様にするためのカムフラージュだった可能性があるし、または烏天狗の事を気付かせようとしていたのかも知れない?とも思わずにはいられなかった。
「お前の考えている通りだ。」
まるで、今の私の脳内の考えを読んだかのような答えを言う。
「え?何で?」
これじゃあ、私がコソコソと考えた事が丸聞こえみたいじゃないの!?と思って怒ってみると、今度は弓木がクスクスと笑っている。
「いや、悪い悪い。」
そう言って、滅多に笑った所を見たことが無かった人の笑い顔を見る羽目になった。
何か、もう色々考えたりしても丸聞こえっぽいので何も考えない様にしてみると不意に頭の中に声が聞こえた。
(そうそう、そんな風に心を真っ白にすると聞こえるだろう?)
もしかして、テレパシー的な・・・・
弓木の顔を見ると、にっこり笑って人を斬った様な笑顔をしていた。
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