処刑人と踊れ
※グロいかもしれないしグロくないかもしれない。
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ぱりぽりむしゃむしゃ、ぱりぽりむしゃむしゃ、ぱりぽりむしゃむしゃ、ぱりぽりむしゃ……
規則的な咀嚼音が続く。石造りの牢屋の中で、ひとりの少年がひたすら菓子をはみ、噛み、飲み下す音だけが大きく響き渡る。それ以外の音――例えば僕の僅かな衣擦れや息遣いは咀嚼音にかき消されていく。
僕は他人のたてる音が嫌いだ。呼吸音ですら耳障りに感じるほどだから、他人の咀嚼音など耐えられない。
「ねえ、もう少し静かに食べてよ」
いらいらする。声がとげとげしくなったのはわざとで不可抗力だ。僕はこんな状況で他人に気を使えるような聖人じゃない。
ぱりぽりぽりむしゃりむしゃりくちゃ、ぱりぽりぽりむしゃりむしゃりくちゃ、ぱりぽりぽりむしゃりむしゃりくちゃ、ぱりぽりぽりむしゃりむしゃりくちゃ……
僕の声はちゃんと聞こえたはずなのに、少年の口から聞こえるくちゃくちゃ音は止まらない。いや、聞こえているからだろう。余計に大きく、耳障りな音へと進化している。この野郎。
わかっている。こいつはそういうやつだ。他人が嫌がることを喜んでやるやつなのだ。もちろん悪い意味で。
初めて会ったのは一年前だった。
あの日も今日と同じ寒い雪の日で、家も無く食べ物も無く、困った僕は止むに止まれず手近な家に火をつけた。そう、暖を取ろうとしたのだ。そして運の悪いことに、吹いた突風に煽られて火はあれよあれよというまに燃え広がり、見事に一村まるまる灰になった。僕は大量虐殺の大罪人として御用になり、地下牢に入れられてしまったというわけだ。
その地下牢に、こいつはいた。金の髪に目、血色の良い健康的な肌。あからさまに富裕層とわかる子どもが牢屋にぶちこまれている姿は不自然そのものだった。
不自然ついでにこいつは僕が同じ牢屋にいる間、常にものを食べていた。僕は食べたことのないそれは、曰くやつにとって菓子も同然なのだそうだ。
一年前はほどなくして、僕の無実は証明されて牢屋から出ることができた。当然だ。偶然突風が吹いたからといって死刑になどなってたまるか。
さて、今回はどうだろうか。
やつは依然としてくちゃくちゃ嫌らしい音を垂れ流す。口から下を真っ赤に汚した処刑人は、被告人の腹から新しい一本を取り出し、にやりと笑った。
<了>
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