初めての冒険7 ~セラ救出劇5~


 

 セラ様を後方に下げて、先頭を俺が務める。


「ニコルは攻めて、攻めて、攻めまくれ。マハルは回復に務めながらの援護。セリーナさんとノギばぁ様は……どうする?」


俺はニコルとマハルの実力は把握しているが、この二人の実力を把握はしていない。


「私はこの自慢の弓で射抜くだけさ。接近されたら短刀で応戦する。ノギばぁ様は土魔法が使えたはずさ」


はきはきとセリーナさんが答えてくれた。

ありがたい、これで大体の戦力把握が出来た。


「ではみなさん、最後の踏ん張りどころ。セナ様も見ています。がんばりましょうぞ!」


俺は味方全員を鼓舞した。

戦いは数も重要だが、士気も重要な要因の一つだ。

数が負けている分、士気で負けていたら、話にはならない。

正面を見据える。

森の中から、不気味な仮面をつけた狸の集団が姿を現した。

たくさんある木の陰から、たくさんの仮面がこっちを見ている。

この光景は何とも、異様な景色だ。

こちらの士気を落とす意味では、かなりの効果はある。

まさか、もう仕掛けて来るとは思わなかった。

俺が……

俺がやらないと……!

皆が唖然としている中、俺は動いた。

一番近くの木の裏に隠れている仮面狸に狙いを定めて、風の精霊の加護を得て、疾風のように斬りかかった。


「おっしゃ!」


風を纏いし、真空の刃は木の陰にいる仮面狸を木ごと、斬り裂いた。

仮面狸の断末魔の叫びと木が真っ二つに斬れて、地面に大きな音を立てて、滑り落ちていく。


「みんな、落ち着いていけば問題なく、倒せる! 一体ずつ確実に倒していくぞ! 俺に続け!!」


俺は、ニコルを振り返り、目で合図を送った。

俺に続いて、仮面狸を次々に倒していって欲しい。

ニコルは俺の目の合図に気が付いたようだ。

自慢の身軽さを活かし、木の陰にいる仮面狸を槍で貫いていく。

士気をガンガン上げていかないと、いずれ必ず息切れが来る。

それまでたくさんの敵を可能な限り、倒さないといけない。

俺は、仮面狸の集団の中で、ミキソの姿を探す。雑魚をいくら倒そうと、奴を倒さない限り、この戦いは終わらない。そんな気がしてならない。

どこにいる?

あれだけ他の仮面狸と大きさや仮面の模様が違うのなら、すぐに分かるはずだが。

敵の隊長格を殺らない限り、これだけの数だ。

士気も下がらないだろう。

あれは?

さっき土遁の術を使用して、俺を地面の中に生き埋めにしようとした奴らだ。

まずはあいつらから倒すか。

森の中から飛び出し、砂地に出る。

いたいた。

間違いない!


「見つけたぞ」


俺の視線の先には、土遁使いの仮面狸が四人いる。

俺の声に対して、四人が一斉にこちらを向いた。

土遁兄弟だな。


「土遁」


手で印を軽快に結びながら、彼らは一斉に術を発生させた。

俺の足元が崩れ、あっという間に流砂のように全てを飲み込もうとする。

しかし、俺は風の運びにより、技自体を無効化する。そのついでに、一番近い四人の内の一人に斬りかかった。


「おおっ!!」


勢いよく、剣一閃。

手応えありだ。

ん?

しかし、周囲の仮面狸達は特に驚くことさえもなく、こっちを見ている。

なんだ?

仲間がやられたのに微動だにしないなんて……。

しかして俺は、その理由がすぐに分かることとなる。


「これは……!?」


ついさっき倒した仮面狸が砂に変化していく。

確かに手応えはあったが、それはどうやら砂の分身の手応えだったようだ。


「ふふ……まぬけ」


仮面狸の集団の中から、そんな声が聞こえた。

馬鹿にしやがって。


「土遁」


また呪文が唱えられた。俺はまた土遁と唱えた仮面狸に斬りかかる。

手応えはあったが、俺の目の前で砂へと姿が変わる。

砂分身か!

厄介だな、あまり手こずっているところを見せると、士気に影響が出てしまう。

三体目も倒す。

がしかし、これも砂分身。

ならば最後の一体。

今までの思いを乗せるかのように、俺から渾身の一撃が放たれた。

仮面狸の仮面を脳天から叩き割り、ついに俺は勝利を得たと核心した。

最後の一体であったから間違いないと勝手に思い込んでいた。

俺のその短慮をあざ笑うかのように、目の前の仮面狸は砂へと変わり、大地へと戻っていった。

馬鹿な。

では一体本体はどこだ?

俺は周囲を見渡すが、どこもかしこも仮面狸で一杯だ。

一体どこに……

分からない。

唖然としている俺の周りに砂からまた招かれざる敵が現れた。

砂人形だ。

砂で出来た操り人形。

術者の命令を忠実に遂行する地味だが、厄介な相手だ。

いいぜ、やってやる。

昔の俺はこんな逆境でも笑っていたはずだ。

作り笑いで無理やり、俺は笑おうとする。


「ウィルや、安心おしい。私が敵をあぶり出す……」


ここまでの接近に気が付かなかった。

まるで存在感がない。


「ノギばぁ様……」


俺は隣りにいる俺の半分の身長しかない老婦人を見た。

こっちを見て、にかっと微笑んでいる。


「全く、こんな前線まで護衛も付けずに来るなんてどうかしてますよ」


俺はそう言い、ノギばぁ様を守れるようにいつでも動ける場所に待機している。


「ほっほっほっ……セラ様も怖い思いをして、主にも多大な迷惑を掛けておる。老い先短い老人にはもはや命くらいしか掛けるものがなくてねぇ」


皺でしわくしゃな顔で笑いながらも、この老人からは多大な意志の強さを感じた。


「いえいえ、ノギばぁ様はセラ様に必要な存在。死なせるわけにはいかせませぬ」


俺はそう言い、砂人形の首を剣で跳ね飛ばした。しかし、地面から砂を吸収し、すぐに再生する。

ちぃ、手強い!


「本体はここら辺一帯の中で、必ずおるはず。それも肉眼で、こちらの様子を伺える場所。よって周辺の砂人形を一気に水で洗い流す。そうすれば本体だけが残るはず。魔力を溜めるから、お待ち」


そう言うとノギばぁ様は、険しい表情で魔力を溜め始めた。

これほど齢を重ねても、彼女の手には魔力が煌々と流れこむように溜まっているのが分かる。

俺は魔力を溜めているノギばぁ様を砂人形達から守る。

ノギばぁ様がこれからすることをもしかしたら分かっているのかもしれない。

させん。

ノギばぁ様には指一本触れさせん。


「ウィル、準備が終えました」


よし、その答え待っていました。


「お願いします。一気にやってください。うおおおおお」


近くにいた複数の砂人形の振り下ろしの攻撃を盾で受け止める。

中々の重さ……だが!

くわっと目を見開き、俺は押し返す。

こんなの巨人族の一撃に比べたら、屁の河童だぜ。


「●▲■……」


ノギばぁ様が聞き慣れない詠唱を始めた。

するとここら辺一体に滝のような雨が降り注いだ。

こっちもやばいか、俺はノギばぁ様を抱え、すぐにその場から離れた。

どばりと一気に天から水が注がれる。水圧で

砂人形はどんどん溶けていき、流されていく。

よし、これなら犯人が分かり……。

するとたくさんいた仮面狸が水で流され、一人だけぽつんと取り残されている奴がいた。

アイツだ。

直感でそうすぐにわかった。

俺はすこし不憫だなとは思ったが、俺にこれだけ骨を折らせたのはこいつだ。

心を鬼にして、剣を振るった。

鈍い感触、俺の鎧に返り血が飛んできた。

間違いない、こいつだ!

こいつこそは!

俺は容赦なく、この仮面狸の首を飛ばした。

ここまで苦労させられたので、容赦なく、攻撃することが出来た。

さてノギばぁ様を拾い、すぐにセラ様のところに戻しに帰る。

やはりセラ様はノギばぁ様がいなくなったのを気にしていたそうだ。

戻ったのを確認すると、本当に喜んでいた。


「俺は持ち場に戻ります、では」


すぐに自分がさっきまでいた前線に戻る。

村の武装した男衆もよくやっている。

仮面狸と戦っても、一対一では負けることはない。

誰が鍛えたか分からないがよく訓練されている。

またそれを指揮するセリーナさんも男勝りで凄い。的確な狙撃で仮面狸をばたばたと射抜いていく。

ここも大丈夫だな。

マハルも魔力消費の少ない魔法でどうやら援護してくれている。

ニコルはやはりというわけではないがルンバと対決していた。

この二人はどうやら決着をつけないと駄目なようだ。

高速の突き攻撃を繰り出すニコル。

それを捌くルンバ。

相変わらず、長く掛かりそうな試合だ。

俺もある程度戦ったらミキソと決着を付けないといけない。

速さはニコルが上だが、やつには火遁と雷遁がある。

特に雷遁は要注意だ。

だが勝負があっさり着いた。


「見事だね、赤髪のおねーちゃん。俺の悪い癖だ」


自分の胸元の槍が突き刺さっているのを痛感しながら、ルンバはゆっくりとその場に倒れた。

傷は浅い。ニコルなりの優しさなのかもしれない。


「同じ印を二回繰り返す。それがなければ私の負けだったかもしれない」


ニコルははぁはぁと肩で息をしているのが分かる。


「癖か。それがなければ奴の勝ちだったかもしれない。だからこそ戦いは何が起こるかわからない」


今回はその相手の癖に助けられたが、次はわからない。

だからこそ日々の鍛錬が大切なのだ。


「まだ戦えるか? ニコル」


もちろんとニコルは答えてくれた。


「よし、それじゃ行くぜ」


俺はニコルに言ったが、それは自分の魂をも鼓舞するかのように言った。

仮面狸の数もノギばぁ様の繰り出した魔法で大分減ってしまった。

非常にいいことではある。

うまくいきすぎているくらいだ。

まさかミキソの幻術にすでに掛かっているわけではあるまいな。

自分で頬をつねるが痛みを感じる。

まだ現実のようだ。


「我の創りだした幻術世界のほうが、よかったか?」


どこからともなく声が聞こえてくる。

まさか他人の頭の中に干渉してくるとはな。


「一度、闘った相手の中には、こんなふうに干渉してくるのか」

「だから次こそやつを倒さなくてはならない。そうでしょ」


長引けば長びくほどやっかいだ。

ミキソを慎重に探す。

あの出で立ちは!

いたいた。こっちを見ているようだ。


「いくぞ!」


言葉を声にし、ミキソに攻撃を開始する。

捉えるが捉えていない。

やつも他と同様。本体を倒さないことには意味が無い。


「本体はどこだ?」


俺は奴に聞く。

待ち望んだ返事が帰ってくるとは思っていないが聞いてみる。


「それを言ったら、終わりだ冒険者。今度は確実にお前を殺す。幻の中で死んでいくがいい」


ミキソはそういい、豪快に振りかぶってきた。

重い一撃を盾で受け止める。やはりどことなく異なる。盾の上に乗っかっている手も実体ではないので、重みがあるのがウソのようだ。

重みがあるように見せているだけだ。


「今の俺には、幻は通用しないぞ」


事前に薬を飲み、対抗する術を持っている。


「ふっ、どうかな。貴様はすでに我が術中にかかっていることにまだ気づかぬ様子」


なんだと?

俺がはっとなって気が付いた時に遅かった。

周囲の世界がぐらんぐらんに揺れて、変化していく。

もうすでにかかっているだと!?

一体いつ奴は俺に幻術をかける素振りをしたんだ……。

分からない。

だが意識はしっかりしているのは確かなので。

おそらくこちらの意識とは別に自然にかかる代物だと思う。

ここは?

場所は特に変わらない森の中だ。どういうことだ? 

場所自体変わっていないのか。

歩いて少し進むと、目の前に現れたのは……

一匹の蛇だった。

こちらに対して、敵対心を露わにしている。

蛇だと!?

蛇がこの俺に勝てると思うなよ。

俺は抜刀する。

蛇はというと、しゃーと威嚇しながら、こっちを見て微動だにしない。

中々隙がない蛇だな。

動かないのを見て、俺も黙って盾を構える。

少しの沈黙が周囲に流れた。

先に動いたのは蛇だった。

鋭い噛みつき攻撃で襲い掛かってくる。

直線的な動きで、どこに飛んで来るのか分かるが、隙がなくて、正確なので中々防ぐので大変だ。

それを間髪入れず、入れてくるのが並ではない。戦いにくい蛇だ。

だがこっちも本職なんだ。

自分のもっているもので勝負しなくちゃならない。

蛇はその間も攻撃を繰り出していく。

鋭い牙が俺の横をかすめていった。いい一撃だ。敵ながら素晴らしいと思う。

だが、攻勢に出てきたところで、流れが止められるのはどうだ?

俺は盾で蛇の側面部を殴りとばした。

蛇が悲鳴を上げて、その場に倒れた。

勝機。

俺は剣を持ち、蛇に向かって突き立てた。

これで最後だ!

蛇に向かって、突き立てられた刃は確実に蛇に突き刺さると思った。

しかしそれは能わなかった。

蛇が姿を消した?

いったいどこに?

俺は周囲を見回したが、すぐに合点がいった。

あの状況で躱せて、反撃出来る場所は上空しかない。

はっとなり、上空を見上げると蛇がいた。

やはり。

そして上空から鋭い一撃が降ってきた。

俺はすぐに盾を出し、その一撃に備える。

盾に蛇が身を任せるように、上空から天駆けるように、突っ込んできた。

盾に衝撃が走り、後方に少し俺は吹き飛んだ。まさかこれほどの威力を秘めているとは。

槍術士まがいの技を使いやがって……。

んん?

槍術士まがいの技?

さっきのきめこまやかな技の数々。

どこかで見たと思ったらニコルの動きにそっくりだ。

てことは俺は幻術にかけられて、ニコルと戦ってたということになる。

ニコルも俺と同じ感じであろう。中々エグい手を使うな。俺はあのミキソの仮面を思い出した。

さてどうするか……ニコルは気が付いているのであろうか。

まずは俺がここから出る。

そっからだ。

ニコルもとい蛇がまた突っ込んでくる。

俺は回避行動はとるが、蛇の攻撃で傷つくようにあいまいに動いた。

軽く痛みが走った。

ぐうううう!!

すこしでもやっぱ痛い。

だがおかげでこれで分かるはずだ。


「ニコル? ニコル? 聞こえてるか? おい、目を覚ませ!」


俺の呼びかけに、ニコルはようやく目が冷めたようだ。


「あれ? 私……」


よし、戻ったな。

俺は槍がかすめた部分を軽く処置する。


「幻術に俺とニコルがかかっていて、お互い闘ってたみたいだ。覚えてないか?」


ニコルに聞いてみると


「あまり覚えてないけど。どんな攻撃も跳ね返してくる魔物がいて、困ってました。初めてみせた技もうまく防がれてしまったし」


と答えた。

その相手は、間違いなく俺だ。


「まぁいいさ。出てこれたんだから。霧がどんどん強くなっていく。どう動くか?」


霧の中をさまよいながら進む。

ここは?

霧の中からぼんやり姿を現したのは墓だった。

一体誰のと思い、墓に近づく。

すると、棺にがミキソという名前が書いてある。

ミキソ?

いったいこれはどういうことなんだ。

今、俺たちが戦っているのがミキソではないのか。

ではこの棺で眠っているのは、一体?

わからないことだらけだ。

とりあえず、警戒しながら進むぞ。

少しずつ進む。


「待っていたぞ」


ミキソがいる。目を合わせないように


「待っていてほしくはなかったけどな」


俺は答える。視線は地面に伏したままだが。

迂闊にミキソのほうを見てはいけない。


「つれないな、顔を上げてもいいぞ。もう幻術は使用しない。必要ないのだからな。それに」


ミキソが大事につれているのはセラ様だった。

馬鹿な、何故セラ様がここに!?

俺は動揺を隠しながらいつも通りの感じで振る舞う。


「あんた、いつの間にセラ様を奪い返したんだ?」


俺は試しに聞いてみた。


「幻術をかけたらすぐに渡してくれたわ」


くくくとミキソは不敵に笑っている。










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