石はかく語りき

 急速に拡散した閃光は、その終わり方も急激だった。

 瞼の裏側にまで浸透していた光の白は、次第に闇の黒を受け入れる。

 ぎゅっと瞑っていた目を覆う手を下ろすと、先程までの事が嘘みたいに穏やかな光景がぼんやりと映った。

「……何だったの?」

 未だ視界が定まらぬまま、呆然とミュウミュウは呟く。

 窓辺に置いていた筈の箱は、いつの間にか足元に転がっている。

 その事がわかるくらいに視力が回復すると、ミュウミュウはその場に屈む。

 そして、恐る恐る箱を手にすると持ち上げた。

 傾むけた側から、何かが落ちる。硬い音が小気味よく跳ねていく。

 それは何かと何かがぶつかり合い、反発し合う音。

 石造りの床に転がっていく音。

 ふとミュウミュウは、トラウィス国に伝わる童謡を思い出した。


 転がるよ 転がるよ

 そして宝石は 踊り出すんだ


『ふあぁぁぁあぁ~~~っ』 

 懐かしさに浸るミュウミュウの耳に届いたのは。

『ねみぃ~……』

 そして、やっと馴れた瞳に飛び込んで来たのは……!

「なっなっなっ…」

 二の句が継げぬまま、ミュウミュウの体はわなわなと震える。

 その顔は紅玉のごとく真っ赤に染まり、今にも沸騰しそうだった。

『ん?』

「ん? じゃなくてっ!」

 手近にあったシーツを高速で丸めると、豪速球で投げ付ける。

「何で裸っ? 馬鹿っ! 変態っ! ってか、アンタ誰よっ!」


 数分後。


「御父様、御母様」

 ミュウミュウは項垂れ、窓辺で懺悔していた。

「嫁入り前だというのに、ミュウは殿方の生まれたままの姿に遭遇してしまいました」

『あのさぁ……何、一人でブツブツ言ってんの?』

「不可抗力でした」

『ねぇ』

「どうしようもありませんでした」

『ねぇってば…』

「う……う……うるさーいっ!」

『望みは?』

 空気を読めない謎の少年は、ミュウミュウの叫びに見事に被せる。

「え? 望み?」

『そう。望み』

 おうむ返しに尋ねると、シーツにくるまったまま不思議な少年は屈託なく微笑む。

『俺を解放してくれたら、何でも望みを叶えてやるよ?』

 心の泉に雫が一滴。波紋を生み出し、広がる。

 ミュウミュウは固まったまま、動けなかった。

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