第10日目:Ⅰ【今日と事件】

 周りが山で囲まれている為、雪が降らないこの地域。只々、身体を凍えらせる風が吹くだけだ。

 歪んだ形のコーラの缶がカラカラと転がる。

 今年は去年以上に色んなことがあった。

 いつの間にか二月も後半。先輩達とはもう部活で会っていない。

 今までの事を考えていると、胸の辺りからホッと暖かくなる。

 巧先輩の家に行く途中に見た、真っ赤なソメイヨシノは、いつの間にか細い枝だけになっていた。

 浩介先輩と最初に作った物は何だったか、と考えていると猫多摩中学校に着いてしまう。



 家の隣の工場にある、ドラム缶を見ると俺らが作ったタイムマシンを思い出す。

 裕平は面白い奴だ。自分はほとんど話したことが無いくせに、巧先輩の心配をして、一年の頃のような暗い顔をさせていた。

「全く、自分のことも考えろよな」

 なんて口に出すといつものバス停の前に着いていた。


 バスの中は静かだった。前から二番目の位置に立っている俺の、右に立っている女子高生のヘッドフォンからも、音漏れはなく、只々バスが道で跳ねた時のガタンという音しか聞こえない。

 この時間のこのバスには皆、定位置がある。そう思う。だから今日は違和感を感じた。

 バスの奥の方に、いつもはいない男子高校生が立っていた。

 好青年とは程遠い感じの、目つきの悪い奴だった。

 服装は、自分が行きたいと思っている北西条高校の制服だった。

 自分の家から近く、更に巧先輩も通っているという。

 こんな風に、何も考えてない時にこそ事は起きる。



 一校時の国語の時間中、先生がアニメの話をしだしたことで思い出した事がある。

 壊したはずのどこでもドアだが、実は浩介先輩が、小型のどこでもドアを作っていた事を知っている。

 人が丁度通れるサイズで、先輩の鞄にくっついている。いつもは背中側にあるので見えない。

 僕らが最初に作った異世界は、いつの間にか使わなくなっていた。一つ理由らしきものを上げるとすると、異世界への扉を、開く手順が面倒くさかったのだ。


 廊下がざわつき始める。

 先生が廊下に呼ばれ何やら深刻な顔で話をしている。

 僕は、扉側の席なので先生の話している事が聞き取れた。

 ーーバスの中にいるうちの生徒は何人なんだ

 ーー三人だそうです。一人は寝坊したらしく、今日は車だったと

 ーーで、どうするんだ

 ーー校長は、教員で助けに行けと

 ーー警察は、どうなんだ

 ーー校長はあの放火事件以来、警察が嫌いで

 ーー浩介も居るんだろ。うちの学校の中で一番頭が良い

 ーーそうですけど

 この時、僕には分かった。あのドアの意味を。

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