第9日目:Ⅰ【巧先輩と僕らの誤解】

【1時間目】

 もしも、僕らが巧先輩に会ったとする。

 その時、僕らは巧先輩に何と言えばいいのか。

 そう、考える時がたまにある。

 灰になっていく芸術棟を見て落ち込む巧先輩の暗い顔、その後僕らは巧先輩を見ていない。

 男の人と歩く巧先輩を見た、という話を聞いたことがある。

 それを聞いた時、僕らはもしかしてその男は事件の犯人なんじゃないか。とか、薬に手を出してしまったんじゃないか。なんて、悪い考えしか思い浮かばなかった。


 「なに暗い顔してんだ祐介。ブラックホール以上に暗いぞ」

 浩介先輩はどんな時だって元気だ。悲しんだり、落ち込んだりしているところを見たことがない。

「もしも、小型のブラックホールがあれば巧先輩は疑われなかったのに」

 事前に犯人を吸い込めば、事件を未然に防げたのに、と。

 自分でも何を言っているのかは分からない。

 そもそも、事前に犯人が分かっていたなら事件が起こる事もなかっただろう。

「ブラックホールを作るのは不可能だ。でもな、を使えば先輩を、先輩の気持ちを少しくらい楽にできるんじゃないか?」

 その話を聞いて、僕は大草原の風を受けたような気持ちになった。その考えは僕には無かったのだ。巧先輩の絵は、守るために持ってきたが、それからずっと美術室に飾ったままだった。

 先輩がまだ、深い洞窟の中にいるような、気持ちのままなら、僕は先輩を助けたい。

 そう、思っていた。


「空飛ぶ魚は幸せのために明日を叫ぶ」

 そのフレーズは、小学校の時に読んだ詩集にあった七夕の詩にあったものだ。

“2匹の空飛ぶ魚は七夕の日にだけ出会える。

ある日空飛ぶ魚は言った。

‘僕は幸せのために明日を叫ぶんだ。’

2匹の空飛ぶ魚は七夕の日にだけ出会える。

ある日空飛ぶ魚は言った。

‘私は幸せのために空を飛び続けるの。’

2匹の空飛ぶ魚は七夕の日にだけ幸せに会える。”

 少し前に七夕は終わってしまったが、僕はこの詩が大好きだった。

 作者はこの詩に出てくる、空飛ぶ魚は自由な人を意味するという。

 しかし、自由なはずなのに七夕にしか2匹は出会えない。

 昔、この作者金見かなみきよしのサイン会に行った時にこれについて、聞いた事がある。

 すると金見澄は、人の人生なんてそんなものだ。と、投げやりに言ってきた。

 僕は思った。

 ならば、僕は自由と幸せを守れるような人になろう、と。

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