第4話
「ただいま…」
散らかったリビングに顔を出す。
ソファには世間一般的に母親と呼ばれる女が寝転がっていた。
女が私に気付く。
「おかえりー。あ、ごめーん今日あんたの1万円借りたわ。」
「え?」
「ほら、貯金箱の隣に置いてたやつ。来週返すからさぁ」
「返すって…どうやって」
「来週新台が出んのよ。そこでパーッと当ててあんたへの借金返して、2人で焼肉行こうよーう!」
「…ばかじゃないの」
消えそうな声で呟いた。
「え、なぁにー?れ、い、な、ちゃーん」
私はその問い掛けを無視して部屋に戻った。
机の上の貯金箱の横に置いてあった封筒の中を見ると、空になっていた。
あの女は本当に取ったんだ。
週末買おうと思っていた服代だったのに…
こんな事は何度もあるので、今更怒ったりはしない。
ただただ、悲しくなるだけ…
私の家はあの女とお父さんとの3人暮らし。
あの女は見ての通りだらしなくて、手料理もほとんど食べた記憶がない。
虐待は無かったものの、愛情をもらった事も一度もない。
ほとんど毎日パチンコに行き、勝った負けたの繰り返しで、勝った日は私の借金返済にはあてず服や高級出前に使ったりする。
私はあの女を母親とは認めていない。
お父さんは優しいけど、あまり家にいない。
たまにお小遣いをくれたり、私の体調や学校生活を気にかけたりはする。
デキ婚だったせいか、あの女には頭が上がらないらしい。
それにお父さんは一度だけ浮気をした事がある。
それもあの女にばれてしまったせいもある。
お父さんの浮気に対して私は責めるつもりはない。
あの女を女として見る方が無理なものだ。
特に私に対して害があるわけでもない。
だから、好きとか嫌いとかじゃなくて、興味が無い。
どうでもいい。
とりあえず高校を卒業するまで何事もなく育ててくれればいいと思っている。
私の家族は、もう崩壊しているのだ。
ふぅ、と軽いため息が出る。
ベッドに横になり、くちゃくちゃのお札を眺める。
(パンツの上から触って、2万円…)
決して安くは無いだろう。
私の中で、変な考えが浮かんだ。
私はたったあれだけの事をされて2万円貰った。
私にはあれだけで2万円の価値がある。
自分の、安いのか高いのかわからない価値に興奮した。
初めて自分の「価値」を実感した瞬間だった。
ふと、電車の事を思い出し、自然に手が下へ伸びる。
おじさんが自分のどこを触ったのか、どのように触ったのかを思い出しながら、自慰を始める。
目を閉じて、知らない男に体を弄られているのを想像する。
前から、後ろから、複数の手が私の体を触る。
太股、股、腰、胸、首、耳…
身動きのできない体。手だけではなく、舌や、男の「それ」を押し付ける。
そして、自分の一番気持ちいいところを刺激する。
「ん…ぁ…」
終わった後、突如喪失感が襲う。
「何やってんだ…」
あんな辱めを受けたのに、懲りていないように思えた。
「私」が。
そして疲れ果てたのか、そのまま寝てしまった。
起きたのは、お父さんとあの女が眠りについた午前1時頃だった。
咲かない蕾 ユリイカ @yuriica
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