第10話サンド君とカインさんとカイウスさんとマリィベルちゃん

「……」


「……」


「鬱陶しいから座れ、サンド」


「あっ、すみませんッス……」


「……」


「……」


「鬱陶しいからキョロキョロすんな、サンド」


「あっ、すみませんッス……」


「……」


「……」


「鬱陶しいから息すんな、サンド」


「あっ、すみませんッス……えぇ!? 無理ッスよ!?」

「お前がそわそわしてんのはわかる。キョロキョロしてんのもわかる。だから少し落ち着け」


「すぅ……はぁ……すぅ……はぁ……」


「深呼吸しなきゃいけないほどなのか……」


「ふぅ。ありがとうございます、カイウスさん。少しだけ落ち着いたッス」


「バルガー帰ってきたー!?」

「うるさいから沈め、カイン」

「痛い!」


「お前もバルガーって単語に過剰反応し過ぎだ」


「うッス……」


「いきなり殴るとかー! ひでーよ、カイウスー!」

「あーあーあー! 耳元で叫ぶな、頭に響く」


「いつもと変わらないだろー? ん? この匂い……酒? 珍しいね、カイウスが匂う程飲むなんて」


「酒に頼らないといてもたっても居られなくなるから、ですね?」


「うおわっ!? マリィベル!? だから気配消して近づかないでくれよー!」

「憶測で物を言うのは止めろ、マリィベル」

「憶測ではなく統計からの推測です。過去、カイウスさんが酒気を漂わせる程飲んだとき、必ず自分ではどうしょうもない、手の届かない事件が有りましたから」


「プププー、分析されてやんのー! って痛い!」

「俺はからかわれるの嫌いって言ったよな、カイン?」

「イダダダダダ! 悪かった、悪かったってー! 頭割れるー!」


「……マリーちゃんは、いつもと変わらないね……。すごいなぁ」

「充分そわそわしていますよ。表に出さないだけで」

「サンドー、良いことを教えてあげよー」

「復活早いッスね、カインさん」

「マリィベルが人差し指と親指を擦り会わせてるのはー、動揺してるサインなのだー! 痛い!?」


「……何かが飛んできたのはわかった。風が動いたからな。だが、なにも見えなかった……。カインがぶっ飛んだ方向からして、マリィベルがやったんだろうが……、マジでなにもんだよ」

「あ、指擦り会わせてる……。かわいいな……」


「お、擦り会わせるスピードが上がったぞ」

「動揺してるねー! グホァ!?」


「カイン……学習しない奴……」

「6mは飛んだッスね……」


「ん? 両手共、擦り会わせてるのが見えるなら、何でぶっ飛ばしてるんだ?」

「た、確かに……!」


「受付嬢の制服じゃ蹴りも無理そうだが……」

「マリーちゃんここから動いてないッスよ」


「あの……本人を目の前で考察しないで頂けませんか」


「だって聞いても答えちゃくれんだろう?」

「別に、隠すことでもありませんから、答えますよ。単純な話です。視覚的には、ここに両手が有り続けているように見えるだけです。

 皆さんが知覚できる範囲を超えた速度で手を動かして戻す。それだけですよ」

「……」

「へぇ、マリーちゃんすげーな! そんなこと出来るのか」



「Aランクのシーフと格闘家の知覚速度を越えて手を動かすだぁ? しかも大人一人を6mも吹っ飛ばす威力で? そんなんビアンカでもできるかどうか……」



「ここのギルドの職員なら誰でもできますよ」

「マジで? ギルド職員ってすげーんだなぁ」

「カウンターにいる職員全員首を横に振っているが」

「あー、痛かったー。なんで俺だけー?」

「位置的に。カイウスさんとサンド君が直線上にいますので」


「サンド……助かった!」

「納得できねー……」

「しかし、カイン。マリィベルの癖なんてよく知ってたな。サンドじゃあるまいし、見続けてたってわけじゃないだろ?」

「ちょっ!?」

「ん。教えてもらったんだよー」


「誰にですか? 誰が そんなことを 教えたんですか?」


「怖い怖い怖いよマリィベル! バ、バルガーだよ! マリィベルとサンドがじゃれあってるときに教えてもらったんだ! 痛い!?」

「じゃれてません」


「バルガー……。早く帰ってこいよ……」


「あーあー、サンドが元通りだよ」

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