第9話マリィベルちゃんとビアンカさん
「ありゃ、マリィベルだけかい?」
「お二人とも待っていられずに討伐依頼を受けにいってしまわれました」
「アンタはずっと待ってたのかい?」
「いえ、仮眠してきましたよ。後で来る、がこんなにも後だとは思いませんでしたが」
「あたしもまさか11時間も寝るとは思わなかったよ」
「ん……、すみません。お疲れの所、お呼びしてしまって」
「今更そんな形だけの社交辞令なんていらないよ。何年付き合ってると思ってんだい」
「10年くらいですかね。さて、昼間のお話の続きをお願いします」
「あいよ。
ありゃ、昨日……遠征最後の日のことなんだがね」
「あたしはいつもの奴――魔族領の定期観測依頼さね――を終えようと、領地境の森に張ってた野営設備を燃やしてたんだがね」
「はい」
「そこまで強いとは言えない程の魔族の気配と、明らかにこの世のモノじゃない、尋常ならざる気配が近付いてきたことを察知してね。
魔族に野営設備や、その痕跡なんかみられるわけにゃいかないから、迂回させようと思って打って出たわけさ」
「まぁ、妥当な判断ですね」
「遠眼鏡使って偵察しながら向かったんだけど、魔族の気配はサキュバスだった。で、それを背負って走っていた尋常じゃない気配の方。見た目は15、6の黒髪黒目のガキなのに、とんでもない魔力振り撒いて走っててね。正直ビビったよ。
しかも、ずっと見続けていたら、誰だ、見ているのは!! なんて叫んで、こっちに一直線。之幸いと野営地とは違う方へ誘導できたけど、ありゃ怖かったねぇ。
そんなんなのに、少し開けた場所へ出て、あたしの姿確認した途端、あの顔だよ。獲物を見付けた学のない野盗みたいな、こっちを値踏みするような顔。そんな顔して、
お姉さん、もしかしてアマゾネスって奴? なんて聞いてくるから冷や汗ものだわね。サキュバスが、今はそんな場合じゃないってガキに言ってくれなきゃ、襲い掛かっていた自信があるよ」
「装備を見ただけで職業を看破しますか……。ビアンカさんの装備は軽戦士とあまり変わらなかったと記憶しているのですが」
「あぁ、それであってるよ。
話を戻すけど、一度はそのサキュバスの言葉に従って、あたしの横を通り抜けかけたんだ。野営地から外れていたから、あたしも追わなかった。
なのに、あたしの横を通り抜け終わる直前、耳障りな高い音が響いた。直感に従ってショートソードを振るったら、今度は剣同士がぶつかる高い音が響いて、ガキが飛び退いた気配がしたんだ」
「そこまで無意識とは、経験の為せる技ですね」
「飛び退いたガキは、弾かれたことに驚いたのか、固まっていたんだけど、それを待ってやる義理はないからね。竜種を相手取る気持ちで仕掛けたんだが、直前でかわされちまった。
その後も、攻めまくったんだが、必ず直前でかわされる。ガキからの攻撃はあったけど、ただ振り回すだけ、ってのがしっくりくる程稚拙だった。冒険者に成り立てだった頃のサンドにすら劣るレベルだね」
「それは……アンバランスですね」
「あぁ。目の性能に体が追い付いていないかのようなに感じだよ。体が追い付いていないといっても、身体能力は異常の一言に尽きるがね」
「ビアンカさんをして異常ですか……」
「斬りあっていた時間は短かったのか長かったのかわからないけど、集中力を大分持っていかれてね。正直もう少し斬り結んでいたらやられていたかもしれないね。
ま、しびれを切らしたのか、戦闘が恐ろしくなったのか、背負われていたサキュバスがガキを急かしてね。あたしから距離を取って、目を瞑って剣に魔力を乗せ始めたんだ。あまり傷付けたくはなかったのですが……なんて言ってたね。
敵を目の前に目を瞑る馬鹿がそこにはいたよ。そんなん待ってやるはずもなく、持ってたショートソードを本気で投擲して逃げてきたって所だ。その後の事は知らないよ」
「……正直報告書が面倒な情報量でしたが、ご協力ありがとうございます」
「あいよ。
そんで? あのガキはなんなんだい?」
「リュート・サカキヴァラ様。先月の終わりに冒険者登録したばかりの、Fランク冒険者です。同時に、国家レベルの指名手配ですね。捕まえたら莫大な財産が約束されるそうですよ? 王族から」
「姓持ちか。だけど、サカキヴァラなんて聞いたことないね。外国か?」
「ギルド書庫にある全ての書物を浚ってみましたが、該当名はありませんでした」
「ギルド書庫の貯蔵書物は万を超えるんだが……」
「一万二万程度なら二日あれば充分ですから」
「恐ろしい処理能力だね……。
しかし、あのガキそんな大金懸かってたのか。これから狙う奴増えるだろうが、ランク制限した方が良いかもねぇ。ありゃAランク冒険者で漸く斬り結べるレベルだよ。そいつがFランクなんて信じられないが」
「その辺りも含めてギルドマスターに報告しますので。それでは、夜分遅くまでありがとうございました」
「あいあい。体調には気を付けなよマリィベル」
「はい。おやすみなさい」
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