第6話サンド君とカインさんとカイウスさん

「おっはよー」

「あ、おはようございますッス、カインさん」

「あれー? サンドだけー?」

「今日はマリーちゃん非番ッス」

「サンドってマリィベルの来る日だけギルド来てるわけじゃ無かったんだー」


「い、いや、まぁ、つい最近まではそうでしたッス……」

「んー? あ、ハハァーン」

「な、なんすか急にニヤニヤし出して」

「バルガーを待ってるのかー? かわいい奴だなー」

「! ……まぁ、そうッス。バルガーが帰ってきた時に、誰もいなかったらあいつ、寂しがるかもしれないじゃないッスか」

「うひひひー、寂しいのはお前だろー?」


「おいーっす、あれ、サンドだけか?」

「おはようございますッス、カイウスさん」

「おはよーカイウスー俺もいるぜー」

「お前はどうでもいいんだが」

「ひっでー」

「マリィベルは、今日は休みか。なのにサンドが居ると……、ほほぅ」

「あ、やっぱわかるー?」

「バルガー待ちなんだろ? つくづく一途だよな、サンドは」

「そ、そんなんじゃねッスよ!? 断じて!!」

「わかってるから立ち上がんな。ま、バルガーが心配なのは俺達も同じだからよ」

「まぁねー」


「……そいや、カインさん達はバルガーとどういう関係なんスか? 俺がここ来たときからつるんでましたよね」

「あはー、ここにいる奴らは大体お前と同じだよー、俺達も含めてねー」

「少なからず奴に世話ンなった、って事だ」


「……それっていつくらいなんスか? あいつ、5年前からずっとここで酒のんでるイメージしか無いんスけど」


「あははー、そりゃお前が来る前からそーだよー」

「バルガーがしっかり冒険者してたらしい時代は、俺らも知らんな」

「ホントにそんな時代あったんスかね……」

「だが、あいつの助言にお前も助けられているだろ?」

「ギルドのランクだって権力や財力じゃ変えらんないからねー」

「俺も色々助言貰ってきたッスけど……全部合ってたッスけど……どうも釈然としないって言うんスかね」

「バルガーの経歴は謎だからねー、俺達みたいな若いのだけじゃなく、引退したじーさんばーさんもバルガーのこと気に入ってるみたいだしー」

「あいつ、ホントに何者なんスか……」



「謎と言えばさー、あいつの嫁の事も大分謎だよねー」

「あ、それ俺も知りたかった事ッスけど……カインさん達も知らないんスか?」

「俺は、少し知ってるぞ」

「えぇー! そんなこと俺一言も聞いたことないぞカイウスー!」

「本当に少しだけだからな」

「少しでいいんで! お願いしますッスカイウスさん!」


「ありゃ、今から10年くらい前の話だ……」


「俺らがバルガーと会ったのが8年前なのに?」

「……8年くらい前の話だ……」

「案外適当だよねカイウスってー。あいてっ」


「黙って聞いてろ……、当時ペーペーだった俺とカインに、初めてバルガーが酒を奢ってくれたことがあったんだ」

「おぉー、それなら覚えてるよー」

「カインは一杯飲んで眠っちまって、俺とバルガーのサシになった時の話なんだ」


「カインさん……」

「昔は酒弱かったんだよー」

「俺がな、いつか高ランク冒険者になったら、必ず奢り返すから待っててくれ! って若い心ながらに言ったら、バルガーの奴、ギャハハハハハ! 若ぇのが気にすんな! それに、この金は嫁が稼いだ金だ。俺に返す必要はねぇよ! ってな」


「カイウスさん……声真似、上手いッスね」

「カイウスはシーフだからねー」

「関係あるんスか……?」


「黙って聞けんのかお前ら。その言葉聞いた俺が、嫁さんいるのか? って、当たり障りない感じで問うたんだ」


「な、なんか得意げッス……」

「カイウスはシーフだからねー」

「関係あるんス……、うぉ!?」

「いったー!」


「バルガーはな、少しだけ目を細めて、愛しそうに、鬱陶しそうに、ただのストーカーだよ……、と言ってたぜ」


「愛しいと鬱陶しいって真逆じゃねー?」

「つまりバルガーの嫁さんってストーカーなんスか?」

「知らん。その後幾ら聞いてもはぐらかされたからな」


「なんつーかー、謎が増えただけっつーかー」

「ストーカーが金くれるってことか? つーかそもそもバルガーなんかにストーカー? ストーキングするまでもなく、あいつずっとここにいるよな。じゃあやっぱり冒険者時代なのか?」

「サンドは帰ってこないし、カイウスは使えないしー」

「お前に言われたくないぞカイン」


「へっへーん、俺も一個思い出しちゃったもんねー」

「なに?」

「教えて欲しいー? でも俺の情報なんてカイウスのより使えないらしいしー、話しても無駄かなー」

「うぜぇ……」

「カインさん! お願いしますッス! 教えてくださいッス!」

「うわわわ、近い近い近いー! いや、ホントに大した話じゃないんだけどねー? あいつが酔いつぶれるくらいのんで、そこのテーブルで寝てる時に、寝言で呟いてたんだよー」


「寝言……」

「焦らすんじゃねえよカイン」


「カイウスせっかちー。バルガー寝言でねー、負けんなよりーちゃん……、って」


「負けんなよ……」

「りーちゃん……」


「正直バルガーの口からりーちゃんなんて可愛い言葉が出た事自体驚きだったけど、今考えればアレは嫁さんの名前だったんじゃないかなーって」


「りーちゃん……りーちゃん……あれ、確か白百合騎士団団長の名前……」

「リリィ・セントラケセタだな」

「符号が合ったって感じだねー」


「じゃ、じゃあ、バルガーが連れてかれたのってもしかして……!」

「いや待て、サンド。騎士団の団長がストーカーなんてすると思うか?」

「それに、いつ知り合ったのか謎だよねー」


「結局は、バルガーが帰ってこないとわからないってことッスか……」

「だな」

「だねー」

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