第5話サンド君とバルガーさんとマリィベルちゃんとカインさんとリリィさん

「国外逃亡?」


「あぁ、あのガキ、サキュバス連れて逃げたって話だぜ」

「はぁ、それを俺に言うのはなんでだ?」

「ギャハハハハ、なんでってお前、愛しのマリィベルがあのガキに捕られないか、気が気じゃなかっただろう? これで懸念はなくなったじゃねえか」

「ばっ、そんな大声で言うんじゃねえよ!」

「ギャハハハハハ、何今更いってやがんだ。ここにいる全員、お前が誰が好きかなんてわかってるだろうが。んー? それともなんだー? あれだけ自分をアピールしておきながら、マリィベルに聞こえるのが恥ずかしいとでもいうつもりかー? んー?」

「うっせぇ! ちっ、そうだよ。悪いかよ」


「ギャハハハハハ! 悪かねェよ! サンド。お前はそれでいいんだ」

「なんだよ急に……。気持ちわりい」

「周り見てみなァ。みんな俺と同じ気持ちだろうよ」

「んだよ……。ニヤニヤしやがって。もう俺は子供じゃねぇんだぞ……」



「おーいバルガー。お客様だぞー」

「あ、カインさん。おはようございますッス」

「おうサンドー。聞いたかー? あのガキ、サキュバス連れて国外逃亡だってよー。やったなー」

「カインさんもですか……」

「ギャハハハハハ! な? 言っただろ?」

「うっせぇよバルガー!」

「ギャハハハハハ! で、なんだって? 俺に客?」

「おうー。えらい別嬪さんだったぞー。どこで引っかけたんだあんな可愛い子―」



「失礼する。バルガー・スタークァストはいるか?」



「騎士? あの紋章、近衛騎士団だぞ?」

「それでいて女性……。白百合の誰かか。生で見るのは初めてだぜ!」


「白百合隊……。この国の最強の1つじゃないッスか……」

「あーやっぱりー? どっかで見たことあるなーとは思ってたんだよねー」

「どっかでってカインさん……。エリート中のエリートッスよ? こういっちゃあなんですが、ギルドに来るような人種じゃないッス」

「そんなエリートでかんわいい娘が、バルガーになんのようだろうねぇ……。ずっと黙ってるけど?」

「バルガー、まさかお前……騎士団にしょっ引かれるようなことを……?」

「バルガーに限ってー、それはないと思うけどー。俺はそんなことより、スタークァストなんて姓持ちだったことの方が驚きだねー」

「……」



「御前失礼します。騎士様。ギルド職員、受付嬢兼接客部長マリィベルと申します。よろしければ、お名前と、バルガー様へのご用件をお願いします」



「マリーちゃんそんな肩書だったのか……」

「おいおいー、サンドお前、マリィベルの事好きなら知っておけよー。俺も初めて知ったけどー」

「……」



「む、失礼した。私は白百合騎士団団長、リリィ・セントラケセタ。スタークァストへの用事は私用だ。詮索は遠慮願おう」



「おいおいおいおい、白百合騎士団団長!? ほんと何したんだよバルガー!」

「セントラケセタは聴いたことないけど……、リリィ? リリィ……聞き覚えあるなぁー」

「……」



「承りました。リリィ様。バルガー様はあちらです」

「フフ、ありがとう。名乗りこそしたが、今日は本当に私用なんだ。そう畏まらなくてもいいさ」

「そのように」



「おいバルガー! 黙ってないで何とか言え! って……バ、バルガー?」

「おぉ……バルガーのこんな怖い顔久しぶりに見たかもー。ほらサンド、俺達どいてよーぜー」

「……」



「……」

「……」



「おぉー、あの二人見つめ合って動かないけどー。大丈夫かなあれー」

「わからんッス……。けど、もしバルガーが連れていかれるとかなら、俺……」

「全力で抵抗する、だろー? 俺だってそうだけどー。まだ判断するには早いとおもうぜー」

「そうですね。騎士様ですし、ギルド内部で荒事は起こさないでしょう。対外的にも印象悪くなりますし」

「マ、マリーちゃん? こっち来て、いいの?」

「ギルド職員として、何が起きたのか報告する義務がありますので。それに、バルガーさんにお世話になっているのは私も同じです」

「マリィベルさん……何君までやる気になってんのさー。バルガーがそんなヘマするわけないっしょー。するとしても見えないとこでやるさー」



「スタークァスト」

「……なんだ」



「おぉ、動きが」

「うわぁ……バルガーどんどん顔怖くなってるよー」



「……やはり場所を移すぞ。ここでは人目に触れすぎる」

「……しょうがねぇな」



「バ、バルガーが連れて行かれる! と、とめねぇと!」

「あ、まてよーサンドー。そんな雰囲気じゃなかっただろー?」

「行ってしまいましたね……」



「ま、待て!」

「……なんだ、貴様」

「バルガーどこへ連れて行くつもりだ!」

「貴様に教える義理はない」

「っ! 行かせねえぞ!」

「……スタークァスト。知り合いか?」

「……あぁ。手荒にしないでやってくれ」


「なんでだよバルガー! って、うおぁ!?」

「はいはーい、下がろうねーサンド君―。バルガー、貸一つでいいかー?」

「あぁ、あとでな」

「待って! カインさん! 首! 首締まってるから! ぐぇぇぇ!」



「もー、白百合にケンカ売るとか意味わかってんのー?」

「まぁ、今日は完全に私用とおっしゃっていましたから大丈夫だとは思いますが……」

「カイ……ンさ……死ぬ……」

「んー? あぁ、ごめんごめんー」

「ぐぇっ、……まぁ、悪かったと思ってるッスけど……いや、止めてくれてありがとうございます、カインさん」

「おぉー、ほんと素直になったねーサンド。昔はもっと撥ねっ返りだったのに」

「そうですか? サンド君は昔から変わっていませんよ?」

「あぁ、それはね、マリィベル。君の前だけ――」

「あーあーあー! マ、マリーちゃん。俺、あの頃から成長してないかな……?」

「いえ、そういうことではありません。昔から、素直だということですよ」

「うひひひー、バルガーの代わりに弄ってやらなきゃねー」



「バルガー……。何事もなければいいんだが……」

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