第4話バルガーさんとマリィベルちゃんとカインさんとカイウスさん

「サキュバス捕獲依頼か……」


「あん? サンド、それ受ける気か?」

「あぁ。やけに報酬がいいし、討伐じゃなくて捕獲だからな」


「……おい、これ、王族依頼だぞ」

「だから報酬が良いってことか?」

「それだけやべー案件って事だよ!」

「……?」

「やめときなサンド。これは受けるべきじゃねぇ。先輩としての忠告だぜ?」


「……わかった。やめとくよ。マリーちゃん! ごめん! これキャンセルで!」

「承りました」


「さて、んじゃ俺は他の依頼受けてくるわ」

「おう。そして俺に貢いでくれ」

「誰が貢ぐか! じゃあな!」


「何故止めたんですか? バルガーさん」

「あん? さっきの理由だけじゃ納得出来ねぇか?」

「はい。依頼主がきな臭い事はこれまでなんどかありましたが、バルガーさん自ら依頼を受けないよう忠告したのは初めて見ますから」

「よく見てんな……。まぁ、そうだな。あと2つ理由がある」

「2つ、ですか」


「なぁ、マリィベル。お前よ、サンドの奴が、サキュバスの誘惑に耐えられると、思うか?」

「……サンド君が、そんなものに……」

「サキュバスの誘惑は凶悪だ。そして、サンドの奴は盛り時。後は、言わなくても判るよな?」

「……サンド君を止めてくれて、ありがとうございます」

「ギャハハハハハ! 一途だねぇ! まぁ安心しろよ。サンドは多分、揺らいだりしねぇからよ。あのガキと違ってな」

「あのガキ、とは……?」

「ほら、こないだサンドを投げ飛ばしたひょろっこいガキ」


「あぁ、リュートさんの事ですね。彼がどうしたのですか?」

「あぁ、あの時、微かだがガキの首筋にサキュバスの残り香を感じた。ありゃ魅入られてんな」

「……それが本当なら、私はギルドマスターへ報告をしなければならないのですが」

「ギャハハハハハ! まぁ待てって。もうすぐ動きがあるだろうからよ!」

「何を――」



「うだー、あのガキ容赦ねー。あ、マリィベルさん、依頼失敗ですー」

「反逆刑だろありゃ……」



「どうされたのですか? カインさんとカイウスさんが揃って依頼失敗だなんて」

「俺たちさー、朝イチであの依頼、サキュバス捕獲依頼受けただろ? それで街中探し回って、さっき漸く見付けたんだわ」

「腹へってんのか、大分動き鈍ってたからな。屋根上から捕獲網を投げた」

「そしたらよー、いきなりスパパパパーンって捕獲網が斬られてよー」

「いつの間にかサキュバスの前に、ガキが一人、守るみてぇに立ってたってわけだ」

「俺たちよー、一応、ギルドの依頼ってこと話してよー、今すぐ渡せば罪は無くなるって事もよー、親切に三回くらい教えてやったのによー」

「あのガキ、気取った口調で、可愛い女の子を寄ってたかっていじめる大人の言うことなんて、信用できませんね。と来たもんだ」

「魔物だぞー? それも人間に害のあるーって言っても、守るの一点張りでよー」

「これは誘惑にやられてんな、と思って実力行使に出たわけだ。ここまでで俺達に非はあるか?」

「ありません。正統な戦闘ですね」


「誘惑にやられてる奴ってなよー。操られてるみたいなもんだからよー。動きは精彩を欠くはずなのによー」

「あのガキ、精彩を欠く処か、至極的確に攻撃してきやがった。後ろに居るのがサキュバスだって理解していたみたいだしな」


「それは、魅入られてこそいれど、自分の意思で動いている、という事でしょうか」


「ギャハハハハハ! そうみるのが一番だろうが、まだ誘惑にやられてる可能性も無きにしも非ずだ! そのガキ、一応ギルド所属なんだろ? 次来たとき問いただしてみりゃいいだろ」

「まぁ、バルガーがそういうなら俺は任せるぜー。マリィベルさん、出来ればこの依頼失敗はカウントしないでくれると助かるなーってー」

「バルガーが言うなら、俺も異存はない。マリィベル、俺からも頼むぞ」

「私の一存では決められませんが、わかりました。ギルドマスターに相談してみます」

「ん、ありがとさーん。さ、カイウスー、やけ酒だー」

「カイン……割り勘な」



「バルガーさん」

「あん?」

「 前々から思っていたんですが、大分信頼されてますよね」

「あぁ、なんだかなぁ。まぁ面倒見た奴が多いからじゃねぇか?」

「カインさんもカイウスさんも、Aランク冒険者なのですが……」

「Bランク如きに教えられるはずねーってか? ギャハハハハハ、こりゃ手厳しいね!」

「そういうこと出はないのですが……」

「ギャハハハハハ! まぁいいじゃねぇか! 世の中そういうこともあるだろ! それよりマリィベル、わかってんだろ?」

「はい。リュートさんの事ですね。しっかり報告しますよ」

「それだけじゃねぇ。冒険者になってすぐのペーペーがAランク二人に勝ったって事実もしっかり伝えろよ?」

「……はい。それでは」



「一波乱……来るかね?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る