彼がのちの…(第11回にごたん)
お題【タイムパラドックス】【共同体≒世界<私の大切なもの】【死を記憶せよ】
「こちら第28班の烏丸きらら訓練生。1170年の京都の実地演習の最中で同じく第28班の梅屋昇訓練生と共に光学迷彩装置の故障。現在、当時の人々との接触を避けるため、山中に待機……」
烏丸さんが本部と通信を取ろうとするが、帰って来るのは雑音ばかり。
俺は烏丸さんを元気づけるべく、明るい調子で話しかけてみた。
「おい、ちゃんと現状を報告しろよ。きららぁ、ついうっかり崖から落ちて両足を骨折してしまいましたぁ。もう 、きららのドジドジ♡」
川の水で足を冷やしている烏丸を裏声でからかうと、すぐ右に後ろの木にサバイバルナイフが刺さり、遅れて右頬から直線状に血がうっすらと滲み出した。
「草で肌を切ってしまうから気を付けなさい、梅屋くん?」
「忠告ありがとうございます、烏丸さん」
とりあえず救援を待つ間、目印の狼煙をあげるために薪を拾うことにした。
「あぁ、日焼けで肌ひりひりする。真っ赤っかだな。ていうかこれ、昔話のワンシーンみたいだな。昇爺さんは山へ芝刈りに、きらら婆さんは川で休んで……『きらら婆さん』とかなんてギャップ」
「こちら烏丸、人間ってよく燃えるらしいですね。どうぞ」
「こちら梅屋、いっぱい薪拾ってくるのでどうか思いとどまってください。どうぞ」
通信機のスイッチ入れっぱなしだった。
結構集めてもう帰ろうかというとき、獣道に少年が倒れていた。やばい、当時の子どもじゃん。接触するのはタイムパラドックス云々で禁止されているけど……
「んなこと知るかい!! 俺は時間管理局員である前に一人の漢、子どもを救わないで何が漢か。局のルールより俺のルール優先だぜ」
抱え起こし話を聞くと、なんでも腹が減って動けないらしい。ひだる神にやられただとかなんとか言っていたが、そんな非科学的話は無視してとりあえず携帯食料を食わせた。
「かたじけない、お主は命の恩人じゃ」
「いいってことよ、女子供を救わない男など漢じゃねぇからな」
「その心意気、ぜひ見習おう」
少年が食い終わるまで暇だったので、長めの棒を木刀代わりに素振りをしていると少年にまじまじと見られていた。そんなに見ちゃ服に穴開いちゃう。
「お主、剣術を心得ておるのか?」
「ああ、剣道の地方大会で優勝するぐらいな」
俺の言葉に小首を傾げる少年だったが、少し俯き考え込むと真剣なまなざしをこちらに向けた。
「聞いたことない流派じゃが、逆に敵の不意を突けるかもしれぬ。お主、助けてもらいながら、更に頼みなどおこがましいのは分かってるが、その剣道とやらを教えてくれんか?師範」
俺は師範という言葉の響きに乗せられ二つ返事で省略した。それからというもの、本部からの救助が来るまで芝刈りをするがてら、少年に剣道を教えた。烏丸に怪しまれたが、よく燃える薪を探してて遅くなったと誤魔化した。ちょっと、調子に乗って漫画でよんだ剣の技も教えたりもした。少年の腕はみるみる上がり、七日にして俺を打ち負かすほどになった。
「師範、手加減は無用です。どうぞ本気で」
「いやこれが俺の本気だよ」
「またまた、ご謙遜を」
ある日、烏丸の所に帰ると、なんと両足骨折していたはずの彼女が普通にスタスタを歩き回っているじゃないか。お前は化け物か妖怪の類かと聞いたら、俺のチャームポイントのすらっとした鼻をちぎろうとしながら、河童から薬を貰ったのなんだの非科学的な話をしていたので無視した。ついに彼女は頭まで筋肉になってしまったらしい。鍛えすぎも考え物だ。
救助が来ると分かった日、俺は少年に別れを告げた。少年は少し、寂しそうだったが笑顔で見送ってくれた。あいつは多分後世に残るようなビッグな漢になるな。
「もう俺から教えれることはもうない。今日でお別れだ。あとは自力で精進したまえ、さらば」
漫画で読んだ人生で一度は言ってみたかったセリフを言って、俺はカッコよく颯爽と帰った。
その数日後、なんとか救助された。少年と接触したことは烏丸にチクられた。しかし、特にお咎めなかったのが不思議でならない。
休みを貰ったら、京都に旅行に行こう。そのついでに少年と会った山、鞍馬山にでも行こうかと思ってる。
にごたん短編集 クラタムロヤ @daradara
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