土の核―金牛・処女・磨羯―
「シャフト坑道――か。かなり、深くまで続いているみたいだね」
「土の加護の豊かな場所ですね。核があるというのもうなずけます」
「奥に、嫌な気配がある……」
ティア、ユングさん、タインさんと一緒に、シャフト坑道を奥へと進む。
かなり地下深い場所だ。ほの暗く、周りを分厚い土壁に覆われ、重苦しいような圧迫感がある。
歩くにつれ、前方から漂う不穏な気配が濃くなっていった。
そして――。
「あれが――、澱み」
――ぉぉぉおお……、おぉぉ、ぉおおおぉぉ……
「う……」
その姿に、放つ雰囲気に、無意識に声がもれた。
怪物のような姿をしているわけじゃない。どこといって、気味の悪い形をしているわけじゃない。外見はただ、黒く、暗く、不明瞭で、いびつなものが、球状に漂っているだけだ。
それでも、それはものすごく不気味で、不快だった。禍々しい負のオーラがそこら中に溢れる。ただひたすらに、不吉で、濁り、『澱んでいた』。
その奥にかすかに、眩い光を放つものが見える。あれが――、核?
「さて、それではいきますよ、主神」
ユングさんが、ロッドを掲げる。
「大丈夫。こわくないよ。僕達がいる」
「……主神は、守る」
レイピアを構えたティアと、巨大なメイスを持ったタインさんも、私の前に進み出て、言った。
皆……。
うん。澱みを見てちょっと怖気づいてたけど、勇気でた。皆がいるんだ、大丈夫。
「じゃあ――、行くよ!」
――戦闘開始!
――ぉぉおおおっっ――
私達の接近に気付いた澱みが、それまでのゆっくりとした動きが嘘のように暴れだす。
早い!無数の手足のように伸びた突起が迫ってくる。
危な――
「主神!」
――バチィッ!
「タインさん!!」
突起と私の間に割って入るように、タインさんがその攻撃を受ける。
「タインさん!大丈夫!?」
「――問題ない。主神が無事なら、それでいい」
よかった……怪我はしてない。――でも、一撃のダメージが思ったよりも大きい。攻撃力が、その辺の敵とは大違いなんだ。
「――こっちからも行くよっ!」
気合の声と共に、ティアが澱みを刺し貫く。きまった!
――と思ったのだけど、澱みはさして痛んだ様子も無く、うごめいている。ほとんど効いてない!?
「……だめだ。相殺されているのもあるけど、なにより元々の防御力がかなり高い」
「――闇雲に攻撃しているだけではだめだということですね。……仕方ありません。主神、手を出して下さい」
なんだろう?
疑問に思いながらも、言われるままに、片手をユングさんに差し出す。
――と、その手をぎゅっと握られた。
「ユ、ユングさん!?」
「お静かに。主神と接していないと術が発動できないだけです。他意はありません」
あ、ああ、そういうことね。びっくりした……。
「全く、この程度で動揺しないでいただきたい。――主神、お力を借りますよ」
そう言うと、ユングさんが集中を高めていく。
「――主神と処女宮の名において、堅牢なる守護を――
言い終わると同時、淡い光が私達四人を包み込んだ。
とても安心感のある、心強く感じる光だ。
「ユングさん、これは……?」
「私達の防御力を向上させました。これで、最初よりはダメージを受けにくくなるでしょう」
「本当!?それなら戦いやすくなるね。術が使えるなんて、すごいなあ……」
「主神がいらっしゃったからですよ」
「え?」
「術は、十二柱と主神で発動させるもの。貴方が私達と紡いだ縁が、術を成立せしめるのです。私だけで使っているのではありません。胸を張って下さい」
ユングさんの優しい言葉に、目を丸くする。
そうか、皆との縁が、術を……。
――なんか、嬉しい。
「にやにやしていないで戦いますよ。――次が来ますっ!」
「くっ!」
どがっ!と、澱みの一撃がティアを襲う。――だけど、タインさんの時よりダメージは軽いみたい。
「すごい!効果がでてる」
「私の術です。当たり前でしょう」
「ふふ、じゃあ僕も負けてられないな。主神!手を、貸してくれる?」
「うん!ティア。お願いっ」
ティアと、しっかり手を繋ぐ。
「――主神と金牛宮の名において、盾よ、砕けて!
――
暗い光が、澱みを取り囲む。澱みが不愉快そうに一度、身もだえだ。
「僕の術で、防御力を低下させたよ。通常攻撃も、今までより通りやすいはず」
「はっ!」
すかさず、タインさんが一撃を繰り出す。巨大なメイスが澱みを打ち据えると、澱みが苦しそうにもがいた。
「効いてる!」
三人が連携して、澱みを攻撃し始めた。少しずつだけど、ダメージが通っているみたい。
よし、私も――。
「えっと――、『風気流』!」
合成アイテムを掲げる。
ふわり、と三人を柔らかな風が取り巻く。
「皆に『風』を付与したよ。これで皆の攻撃は気の加護を帯びるはず!」
――ぉぉお、おおおぉおぉぉぉ――
「確かに、今までよりも大きなダメージを与えられているようです。感謝しますよ、主神。――タイン!あなたは背後から澱みを叩いて下さい!ティアと私は前からかく乱します!」
「分かった」
「いこうか、ユング!」
――そうか、最も攻撃力の高いタインさんが背後から大ダメージを与え、タインさんに澱みを向かわせないように、二人が前から引き付ける作戦だ。
こういう指揮は、さすがユングさん、って感じだな。
見てるばかりじゃ駄目だ。私も攻撃を!
「皆、離れてっ。――『風塵来』!」
私の声に素早く反応し、三人が澱みから飛び離れる。直後、澱みへ凄まじい勢いの暴風が襲いかかった。
――ぉぉおおっ!――
「いいぞ、主神。効いている」
やった!「こうかはばつぐん」かな?
三人は再び連携に戻る。私もアイテムで攻撃、皆がダメージを受ければ回復といった風に、サポートを行った。
――ぉぉ……、ぉ――
「大分、澱みが薄れてきましたね。主神、あと少しのようです」
「――俺が行く」
ざっ、とタインさんがこちらに戻り、私に手を差し出してくれる。
「主神、――力を」
「――うん。お願い」
かたく、その手を握る。
「――主神と磨羯宮の名において、排す。
――
――どかかがががっ!
目にも留まらぬ速さで、タインさんが連続攻撃を繰り出し、澱みがみるみる晴らされていく。そして――。
――ぉ…、――
「澱みが散った!皆、今っ!」
「はいっ」
「うん!」
「ああ」
――三人が核にかけより、その手をかざす。
――カァッ!!
核から放たれる光がその強さを増し、辺りを眩く照らす。
その強さに、思わず目を瞑り――、
――再び、目を開いた時には、辺りの雰囲気は一変していた。
「あ……」
空気が、明るい。
周囲に満ちていた不吉な澱みは姿を消し、変わりに、核から発せられる温かく落ち着いた光りが、坑道を穏やかに照らしていた。
澱みが、晴らされたんだ……。
「――任務は、成功ですね。澱みは散り、核にはエレメントが充填されました」
「やったね、主神……!きみが、力を貸してくれたおかげだよ」
「主神のサポートは、助かった……」
タインさんによしよしと頭を撫でられる。うーん、やっぱりこの人、私の事を子ども扱いしているような……。
でも、やった!
無事に一つ目の核を、浄化できたんだ!!
こうして、「土」の核は力を取り戻した。
残る核は、三つ――。
【使用アイテム】
・旅立ちの風+上昇気流=《風気流:通常攻撃に気の加護を付与する》
・旅立ちの風+砂漠の砂=《風塵来:敵一体に気のダメージを与える》
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