核奪還指南
翌朝、天上宮殿、応接間。
「主神、お二方、お集まりいただきありがとうございます」
応接間に入った私を出迎えてくれたのは、処女宮のユングさんだった。いや、ユングさんだけじゃない――。
「ううん。核が見つかったのなら、僕だって少しでも早く話を聞きたいからね。――こんなに早く見つかるなんて。主神に感謝してるよ。もちろん、調査をしてくれた副神と、ユングにも」
胸に片手を当て、金牛宮のティアさんが言う。
「……この顔ぶれ、意図がある、な」
皆を
……意図?何か目的があって集められたメンバーだということだろうか。
タインさんの言葉に、ユングさんが得たりとうなずく。
「さすがですね。おっしゃる通りです。今この場にいる方は――主神と副神を除けばですが――、ある共通項を持ちます。私を含め、処女宮、磨羯宮、金牛宮――、これらは全て、『土』の加護を担う者」
「土の、加護――」
言われてみれば確かにそうだ。
……不思議だな。こうして集まってみると、全然違う性格の人達なのに、何となく似通った空気があることに気付く。どこか、落ち着いたような雰囲気を持つ人達。……土の、特性なんだろうか?
継いで、シュテルが説明してくれる。
「もちろん、あえて土の三人を揃えたのにはわけがある。――今、探知できた核は一つだけだ。その一つ目の核は、土の核だった」
「土の核のところに行くためには、土の皆さんが必要だっていうこと……?」
「近いな。正確には行くためじゃない。『澱み』を祓った後のためだ」
「――無事に祓い終わったとしても、そのままではまた次の澱みが核にとり憑いてしまいます。その前に、すぐさま土のエレメントを注ぎ込んで、核を活性化する必要がある――。そのためには、土の加護を担う三名全員の力が必要なのです。より迅速に、エレメントを注入するために」
シュテルとユングさんの説明で、何となく分かってきた気がする。
「……そうか、祓って終わりじゃないんだ。再発しないようにするのが大事なんだね」
「そういうことだ」
ティアさんが、片手を上げて尋ねた。
「具体的に、澱みを祓うにはどうすればいいのかな?」
「――澱みは、凝集し、すでに半ば実体と化している。これまで採取地で出合った敵と同じように、力とスキルが通用するはずだ。あんた達で、澱みを撃退してくれ。そうすれば、澱みは散っていくだろう」
シュテルの答えに、タインさんが思案気に問う。
「……散る?無くなりは、しないのか。それでいいのか」
「ええ。――もともと、負の感情というのは無くなりはしないものです。核さえ浄化し、元通りにエレメントが正常に循環するようになれば、散った澱みも大きな影響は出ないでしょう。広く薄くたゆたい、在るがままに在る存在となるはずです」
無くなりはしない、か。確かに、澱みの原因となる負の感情を全て排除しようなんて、無理な話なんだろう。だからこそ、それが必要以上に悪影響に傾くことのないように、四大核を活性化させ、エレメントの流れを回復させることで対応する――ということかな。
「澱みか……。なんだか、強そうだよなあ」
思わず、小さくため息をついてしまう。
「――具体的には未知数だが、通常のモンスターよりも強大な力を持っていることは、予想できるな。――だから、勝率を高めるために、主神に頼みたいことがあるんだ」
シュテルの言葉に、首を傾げた。
「私に?何だろう。全然、戦闘には自信がないけれど……」
「あんたに期待してるのはそういう役割じゃない。力業はこいつらに任せとけ。じゃなくてだな――、問題は、土の加護なんだ」
「土の加護?」
「ああ。さっき説明した通り、エレメントを注ぐために、今回は土の加護を担う三人で向かうわけだが――、やっかいなことに、核の間近で実体化したために、澱みも同じ『土』の加護を帯びていると考えられるんだ」
ん?シュテルの言いたいことが、まだぴんとこないな。
「同じだと、よくないって事?」
考えながら問うと、そうだ、と答えが返ってくる。
「あんたには説明していなかったな。エレメントには火、気、水、土の四種類があることは前に言った通りだが、その四種には、それぞれの相性ってのがある」
「相性?……これとこれは相性が良くない、とかそういうの?」
「その通りだ。火は気を乱し、気は土を削り、土は水をせき止め、水は火を消す。これがそれぞれの強弱関係だな。それだけじゃなく、同じエレメント同士ってのは相性が悪いんだ。お互いを相殺しあってしまう。こちらの攻撃が、相手に通りにくい」
えっと……つまり?
「今回は、必然的に土の加護の三人と行くしかないけど……、そのせいで、澱みを倒しにくくなっちゃうってこと?」
「ご理解いただけたようでなによりです」
ユングさんが、よろしい、という感じでうなずく。
「それが分かれば、貴方の役割も見えるでしょう。貴方は、四種類のエレメント全てを操ることができる。つまり、貴方には加護の縛りがないのです。先程副神が仰ったとおり、『気』は『土』を剋す――つまり、分かりやすく言えば、気の攻撃は相手に効きやすく、逆に相手の攻撃はこちらに効きにくい。貴方には、気の攻防で、私達をサポートして欲しいのですよ」
サポートって言われても……、私、術とか使えるわけじゃないし、一体どうやって?
狼狽していると、それが表情に出ていたのだろう、シュテルが補足してくれた。
「あんた自身が何かしなくても、あんたには主神としての能力があるだろう。――アイテムの合成だ」
「――あ、そうか」
ようやく言いたいことが分かった。
「戦闘の補助に役立つようなアイテムを、私が作って、皆のために使えばいいんだね。少しでも有利に戦いやすくなるように」
「そういうことですね。――よろしくお願いしますよ」
……うん。皆のためだ。
しっかり準備しないと!
「核の場所が分かったっていうことだったよね。それは、どこなのかな。僕たちは、どこに行けばいいの?」
ティアさんの質問に、シュテルが地図を指す。
「ナハト洞窟の、その更に奥地――、シャフト坑道。そこに、土の核がある」
シャフト坑道……。これまでは、行くことができなかった採取地だな。そこに、核があるんだ――。
「そっか。じゃあ、すぐに――と言いたいところだけど、きっと主神には準備の時間が必要だよね」
ティアさんが話を振ってくれる。正直、ありがたい。
「うん、そうだね。合成もしたいし、エレメントも溜めておきたい。一度工房に戻れると嬉しいんだけど……」
皆の様子をうかがうように言ってみると、タインさんに快諾された。
「構わない。主神のタイミングに合わせる。その時が来たら、呼んでくれ」
「そうですね。主神の助力は必要ですし、しっかりと準備をしていただいた方がよいでしょう」
「よし。なら、主神の準備が整い次第、おれが召集をかける。主神、それでいいな」
「うん、――分かった」
そうして工房に戻った私は、戦闘に備え、新アイテムの合成に勤しんだのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます