宝瓶 episode.1&side
「あー、あっちも綺麗!ちょっと行ってくるねー」
「ちょ、ああサーマくん!あんまり動き回らないでー!」
「あっ、鳥だ。どんな鳴き声なんだろー」
「サーマくん、そっちは逆方向だよー!」
つ、疲れる……。
サーマくんが座り込んで絵を描き始めたのを見計らって、私はぐったりとしゃがみこんだ。
今日は宝瓶宮のサーマくんと一緒に、彼との縁で生まれた「虹のかけはし」に採取に来ていた。空に続くような道に、いくつもの虹がかかっている。
来ていた、のだけれど……。彼は興味があるものがあれば、採取などお構いなしにどこまでも跳んで行ってしまうので、目を離せない上に採取は遅々として進んでいなかった。
(うう、澱みの話があって、もっと頑張ろうって思ったばかりなのに……、いきなりこんな上手くいかないなんて……)
焦っても仕方ないと、頭では分かっているけれど、やっぱり焦るよ。
(採取、合成、依頼、十二柱……。採取地にしても、まだ行っていないところもたくさんある。依頼も少しずつこなしてはいるけどまだまだだし、十二柱の皆にも仲良くなれてない人がいる……。なのに、一回採取をするだけでこんなに手間取ってるって……)
「って、うわっ!サーマくん!?」
びっくりした!
思考にふけっていると、いつの間にかサーマくんがすぐ近くに寄ってきて私を覗き込んでいた。
「なんだかね、主神がぐるぐるしてる。心の色がごちゃ混ぜだね。悩みごと?」
「え……サーマくん、そんなの、分かるの?」
「何となくだよー。それに、主神は特に分かりやすいよ」
わ、分かりやすいのか、私。
「ごちゃ混ぜはよくないねー。あのね、お歌とか歌ったら、元気出るよー」
言って、サーマくんは自分で歌いだす。いやあ、ごちゃ混ぜなのは、サーマくんのせいもちょっとあるんだけど……。
って、うわ。サーマくん、歌上手。鈴を転がすような軽やかな声が心地いい。
~♪~♪♪
……そうだな。私、また無駄に焦ってたかも。
サーマくんの歌声を聞いているうちに、変に急ぐ気持ちがなくなってきた。
サーマくんの隣に座り、つられるように、鼻歌を口ずさむ。
~♪~♪♪
元の世界で、好きだった曲だ。
無意識のうちにこの曲を歌っていたけれど、どんな時でも気分を晴れやかにしてくれるような、そんな曲。今の自分には、ぴったりだ。
しばらく歌にひたっていると、いつの間にかサーマくんの歌声が止んでいるのに気付いた。
あ、あれ?いつの間に?
見ると、サーマくんはじっとこっちを見つめていた。
ていうか私、途中から一人で歌ってたんじゃん!うわ、恥ずかしい!
「主神!今のって、主神の世界の曲ー?」
突然、サーマくんが身を乗り出してきた。目が輝いている。
「すっごい、いい歌だねえ!ねね、もう一回聞かせて?」
「え、ええ!?そんな、聞かれてたら恥ずかしいよ!」
「えー。じゃあぼくも一緒に歌う!それならいいよねっ」
「一緒って――」
止める間もなく、サーマくんは歌い始めた。
――うわ、すごい。一回聞いただけなのに、もう完璧に歌えてる……!
――ええい、もういいや。仕方ない。歌っちゃえっ。
~♪~♪♪
I will follow him
Follow him wherever he may go
There isn’t ocean too deep
A mountain so high it can keep
Keep me away
~♪~♪♪
(ああ、懐かしいな)
映像が思い浮かぶ。古いけれど、大好きだった映画の挿入歌。
クラブ歌手が事件を目撃してしまい、身を隠すために修道女のふりをするお話。
そういえば、この曲は賛美歌として歌われていたな、と思い出し、くすりと笑う。
自分で賛美歌を歌う神様なんて、情けないのもいいところだ。
でも、いいや。実際私は情けない神様なんだから。
あー、やっぱりこの歌は楽しい。身体が勝手にリズムをとってしまう。辛い時でも、あの映画を見ると元気が出るんだ。
~♪~♪♪……
歌い終え――、サーマくんとにっこり笑い合う。
「主神の歌は、とっても素敵だねー!」
「ええ?別に、普通でしょ?」
「ううん!素敵だったよー。上手だったし、でもそれよりも、すごく楽しそうだったから。この歌が好きで好きで、歌っていて楽しー!っていうのがいっぱい伝わってきてねー。ぼくも、わくわくしちゃった!」
サーマくんはぴょんぴょん飛び跳ねている。
「あはは、そんなに楽しそうになってくれると、私も嬉しい」
「今みたいにね、楽しんだらいいんだよー」
「え?」
ごろん、と寝転がり、仰向けにこっちを見上げるサーマくん。
「ねー、ここね、きれいだよね。虹もきれいだし、雲も、下に見える街も素敵だよねー」
「あ……」
――本当だ。
採取アイテムを探すのに気をとられて景色なんか見る余裕がなかったけれど……、目の前には絶景と言ってもいいような風景が広がっている。
「こんなにきれいなのに、主神ってば全然見てないんだもん。もったいないよー。アイテム集めもいいけどー、景色を楽しみながら集めたって別にいいんじゃないかなあ。どうせすることが同じなら楽しみながらやった方がお得だよー」
ごろごろしながら、サーマくんが言う。
……うん、そうだね。
「……本当に、見なくちゃもったいないね、こんな景色。――ちょっと、視野が狭くなってみたい。周りを見ながらでも、採取は充分できるもんね」
にっこりと、サーマくんに笑いかける。
「ありがとう、教えてくれて。――それじゃ、散歩しながら採取の続き、しよっか!」
「うん!」
ぴょこっ、と跳ね起き、サーマくんは私の腕に飛びついてくる。ふふ、かわいー。
その後は、気持ちの良い風景の中、散策しながら、私達は採取を続けた。
――side:サーマ――
主神の歌、すっごく素敵だったなあ!
歌ってる時の主神もきらきらしててきれいだったなー。いつもよりカラフルに見えたよ。
他にもたくさんの歌を知ってるんだろうなあ。今度また教えてもらおーっと!
次に一緒にお出かけするのが、楽しみだなっ。
【採取アイテム】
・《虹のかけら:虹色に光るきれいなかけら》
・《上昇気流:これに乗れば勝ち組》
・《雲:名前の通り、雲。水蒸気だから掴めないはずなんだけど……》
・《謎の鳥の羽:正体不明の鳥の羽。美しい》
・《ヒッポグリフの
【習得スキル】
・増殖 Lv.1
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