初めての依頼達成

 合成アイテムの種類が増えてきたので、私とシュテルは久しぶりに酒場に行ってみることにした。

 酒場に入り、カウンターに向かうと、思いがけず客席側に見知った顔があるのを見つける。

「あれ……、ヘルメスさん?」

「ん……?あー!アリサちゃんっ!」

 そこにいたのは、以前私の工房に訪ねて来た女性、ヘルメスさんだった。

「意外だねー、こんなところで会うなんて!アリサちゃん、お酒なんて飲むの?」

「あ、ううん、私は……。ヘルメスさんこそ、どうして?」

「あははー、私はね、仕事を探しに。今ねー、情けないことに、定職が無いんだ。それで酒場の依頼でもこなそうかな、って」

「あ、私も同じ。依頼をこなしに来たの。マスター、今日は、いくつか品物を持ってきたんです。何か、買い取ってもらえそうな物はありますか?」

 と、私が言うと、カウンターの奥のマスターは作業の手を止め、こちらを見た。

「モノ次第だな。どんな物を持ってきたんだ?ちょっと見せてみろ」

 言われて、私は、食塩、はちみつ、マロングラッセなどを並べる。

「ほう、塩か……!この辺りでは、なかなか手に入らないものだ。これは売れそうだな。糖蜜も、質が高い。いい品だ。これは……、栗を蜜で煮たものか?ふむ、これは美味い。ちょうど、食料品関係でいくつか依頼が来ていたから、そちらに回せそうだな。いやあ、嬢ちゃん、見直したぞ。なかなか、いい仕事をするじゃないか」

「やー、それほどでも……」

 褒められ、私は恐縮する。実際、私は材料を混ぜただけで何もしていないので、あんまり褒められると困ってしまう。

(神様なので、とはいえないしなあ……。)


 その様子を興味深そうに見ていたヘルメスさんが、目を輝かせて身を乗り出してきた。

「アリサちゃん、すっごーい!ね、ねね、私にもコツとか教えてもらえないかなあ?」

「こら、姉さん。そんなモン、教えてもらえるわけねえだろうが。これら品物の製法は、この嬢ちゃんのもんだ。それを教えたら、あんたが商売がたきになっちまうじゃねえか」

「あっはは、そうだよね~……。やっぱズルしちゃだめか。あ、じゃあさ、私、自分で勉強する!だから、アリサちゃんが持ってきた品物、なるべく私によく見せてもらうことはできないかなあ?なんとか同じものが作れないかどうか、努力してみるよ」

「おいおい姉さん、自分の作ったものを研究させて欲しいって言われて、そう簡単に了承する奴が……」

「ああ、いいですよ」

 私はあっさり了承する。

「なっ……っ」

「ほんとー!?」

「ええ。別に見られて困るものでもありませんし。それに、質のいいものを作れる人が増えるのは、この世界にとっても良い事だと思いますしね」

「嬢ちゃん……、あんた言う事のスケールがでかいな……。自分の利益より世界のことを考える奴がどこにいるよ」

 マスターが若干呆れ気味に言う。

 しまった。神様としての本音が出すぎて、変な奴だと思われちゃった。……まあいっか。

「アリサちゃん、ほんとにありがとう~。このお礼はいつか絶対に返すから!よーし、そうと決まれば、アリサちゃんをしのぐような物が作れるくらいに、がんばろうっと!マスター、私ちょくちょくここに来るから、アリサちゃんの持ってきたものがあったら私に教えてね」

 ヘルメスさんがやる気に燃えている。

 ふふ、ここまで天真爛漫てんしんらんまんな人って元の世界にはなかなか居なかったから、なんだか微笑ましい。

 応援してるよ、ヘルメスさん。


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