巨蟹 episode.1&side

 とんとん。

 ノックの音で、私は目を覚ました。

「主神。俺だ。起きてるか?開けてくれ」

 シュテルの声だ。あ、あれ?やばい、私、寝坊しちゃった!?

「ご、ごめん、今開ける!」

 言って、慌てて支度をする。しまったー……昨日疲れてたからなー。

 数分後、焦って出迎えた私に、シュテルは申し訳なさそうに笑いかけた。

「まだ寝てたか?昨日、疲れてそうだったもんな。起こして悪かった。勝手に、いつもの時間に来ちまったからな」

「ううん、いいよ。私ももっと早く起きる予定だったから。つい、寝坊しちゃって。今日は、採取かな?」

「ああ。そのつもりだ。……採取地だが、最初はまだ行っていない火の加護の採取地に行こうと思ったんだがな。あんたが随分、疲労困憊ひろうこんぱいしているようだったから、今日はあんたを元気付けようと思ってな。採取地を変える事にした。ついでに、とももそのつもりで選んだから、存分に癒されてくれ」

「癒し……?」

「ああ、もうそこに来てもらっている」

 シュテルが横に身を引くと、シュテルの後ろに立っていたのは――

「あ、しゅ、主神。おはようございます……。今日は、よろしくお願いします」

初日ぶりに会う、女の子のように可愛らしい少年、クレイくんだった。


「この森は、処女宮のユングさんと、主神との縁で生まれた場所だそうです。シャッツの森と言うそうですよ。……あの、森って素敵ですよね。こうやってゆっくり歩いていると、心が安らぐような気がします。……主神のお心も、安らかになると良いのですが」

 クレイくんは、可愛らしい声でそう言い、可愛らしく笑ってくれる。

 ……ああもう、可愛いっ!!

 って、可愛いしか言ってないな、私。でもほんとに、小動物のようで、お人形のようで、朝出会った時も、あまりの可愛さに思わず見た瞬間に抱きしめそうになったのだ。……なんとか自制したけど。

「ほんと、森林浴って、なんだか気分が良くなるよね。清々しいというか」

 そう言って私が微笑むと、クレイくんも私を見てにっこり笑ってくれる。

 ああ……昨日の疲れが癒されていく……。

 しばらく、私達は採取を兼ねた探索を楽しんだ。


 さすがに、森だけあって採取アイテムも豊富だ。思わず私も採取に熱中してしまう。

 夢中になってアイテムを集めていると、ふと気付くとクレイくんの姿が見えなくなっていた。

 ……あ、あれ?

「ク、クレイくん?どこー?」

 私が少し慌てて声をかけると、少し離れたところかクレイくんの声がした。

「しゅ、主神。申し訳ありません。もうすぐ、戻ります!」

 言葉の通り、さほどの時間も待たず、クレイくんが軽く息を切らせて、駆け寄ってくる。

「ご、ごめんなさい。僕、何も言わずにおそばを離れてしまって……」

「ううん、私の方こそ、呼び戻しちゃってごめんね。どうしたの?」

「は、はい。向こうに、これが生えているのが見えたので……」

 そう言ってクレイくんは、綺麗な色の小さな花を差し出して来た。

「これは……?」

「……この花には、気分をリラックスさせる作用があるんです。副神から、主神がお疲れだとうかがいました。それで、この花で、少しでもご気分を楽にすることができたらと……。主神のお仕事は、きっとご苦労も多いと思います。少しでも、僕が、支えて差し上げられることが、あれば良いのですが……」

「クレイくん……」

 な、なんっていい子なの!!

 健気過ぎて思わず泣きそうになるよ!

 私は、クレイくんの手を軽く握るようにして、そっとその花を受け取った。花びらから、芳香がただよって来る。うん、すごくいい香り。

「ありがとう。すごく嬉しい。おかげで元気がでたよ」

 感謝を込めて、クレイくんの頭を撫でる。うわ、髪の毛ふわふわだー。

「主、主神……」

 クレイくんは少し恥ずかしそうに身じろぎしていたけれど、私が喜んだことが伝わったのか、嬉しそうに笑ってくれた。

 そんな感じで、私達は散策を楽しみながら採取を続けた。

 ふふ、なんだか、弟ができたみたいだなー。


 ――side:クレイ――


 よかった……。主神に喜んでいただけたみたいだ。

 お会いしてすぐは、顔色が優れなかったから、心配したけれど。少し元気を出していただけたようだった。今度、あの花のお茶も差し入れしよう。

 でも、撫でられた時はびっくりしたな……。主神に、そんなことをしていただく訳にはいかないのに。

 だけど、主神の手は、優しかった――。


【採取アイテム】

・《栗:「うに」と言ってはいけない》

・《食べられるキノコ:料理に使える。おいしい》

・《食べられないキノコ:食べると危険》

・《はちの巣:名前の通り。色々な物が採れる》

・《さわやかな柑橘:食べられる。皮を搾るといい香りがする》

・《癒しの花びら:クレイくんが見つけてくれた。いい香り》


【習得スキル】

・溶解 Lv.1


【合成アイテム】

・はちの巣+はちの巣=《はちみつ:甘くておいしい》

・栗+はちみつ=

 《マロングラッセ:本当は砂糖液で煮る。洋酒も欲しいところ》

・癒しの花びら+ゲベートの香草=《HP回復薬:体力が回復する》

・癒しの花びら+さわやかな柑橘=《MP回復薬:精神力が回復する》

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