第8話 第一回『勇者と仲間たちの冒険会議(笑)』

「へぇ~、おじいちゃんって『伝説のナイフ使い』なの! さすが勇者の家系は違うわあ(笑)」

美桃は大笑いしながらウケていた。ちなみに私達がいるのは放課後の教室……卓也くんも一緒にいる。

「……保科先輩、笑っちゃ失礼ですよ。家庭の事情っていうのはいろいろあって自分で選べるものじゃないんですから」

ううっ……なんて優しい子なんだ卓也くん。それに比べて美桃、ちょっと失礼じゃあないの、って心の中で思っていると

「うちだって神社なんてやっているせいで、小さい頃はいろいろ嫌がらせされたから分かるんです。イジメよくない!」

珍しく意見を主張したとおもったらそういうことか。でも卓也くん、論点がなんかズレているぞ……。


「そうね、ワタシが悪かったわ。ごめん、加奈」

珍しく美桃が自分から謝ってきた……明日は大雪でも降るんじゃないだろうか。普段と違って素直に謝ってこられると、なんとなくこそばゆい。

「別に謝るほどの事じゃないから、気にしなくていいよ」

「そうよね(笑)、じゃこの話は置いといて本題に進みましょう」

私が合わせてやったのに美桃は、あっさり話を終わらせて違う話題に……まあ、らしいっていえばそうだけど。

「本題って何ですか?」

卓也くんの質問に、美桃が『にまぁっ』とした顔で、


「今日は記念すべき第一回『勇者と仲間たちの冒険会議』を開催します。パチ、パチ、パチ」

と宣言した。そんな話はきいてないぞ、美桃。たしかに午前中、ボヤいてたのは私だけど……。

「美桃、そういうのは必要なら私から言うから。なんで、そんなにノリノリで口を出したがるの?」

と釘をさすと、

「加奈はノリが悪いわねぇ(笑)こういうのはやったもの勝ちなのよ。どうせなら楽しまなくっちゃ」

とぶっちゃけてきた。やっぱり美桃は私の不幸(!)をネタに楽しもうと思っているらしい……。

『やっぱり他人事だと思っているでしょ』と、ジト目でいうと

「そんなことないよ。ワタシだって『勇者加奈』とその仲間の一人なんだから(笑)一蓮托生、運命共同体よ」

と景気よく私の背中をパシッと叩いてきた。痛いぞ、美桃!

 ふと頭の中に『ゆ-そ-あ』という順で歩いているゲームの画面が浮かんできた。もちろん『ゆうしゃ』、『そうりょ』、そして最後の『あ』は『あそびにん』の美桃だ。……バランス悪そうなパーティーだ。早く酒場を探してパーティーを組みなおそうと、私は思った。


「とにかく、次に何したらいいのか思いつかないのよ……頼みの『ぼうけんの書』には、何も書かれてこないし」

私は朝、美桃にボヤいたのと同じことをもう一度言った。

「う~ん……勇者は、やっぱり困っている人を助けるのが使命だと思います」

誰の意見かは書かなくてもわかるだろう、もちろん卓也くんだ。

「思うんだけどさ、冒険クエストが出ないなら、こっちから探せばいいんじゃない?」

「「探すって?」」

びっくりして、卓也くんと同時に聞き返してしまった……ちょっとハズかしい。

「だから、街の中で聞き込みしたり、探すのよ。不思議なことを!」

……いけない。今度は美桃の顔が、黄色いリボンをしたやたら目ヂカラの強いアニメキャラとダブって見えた。

「それって、日曜日に喫茶店に集まって楊枝で班分けするヤツですか?」

卓也くんのツッコミがピンポイントだ(笑)。きっと頭の中に私と同じイメージが浮かんでいるにちがいない。


 アニメの話は置いておいても、いくら『街にいる全員に話しかけて情報を集めるのはRPGゲームの王道』だからといって、現実でそれをやるのはハードルが高すぎる。

「刑事は足で稼ぐのよ」

……美桃がまた、おかしなことを言い始めた。きっと、頭の中には熱い刑事ドラマのBGMが流れているに違いない……このままだと、本当に聞き込みをする羽目になってしまう(涙)そんなことをしたら街中の全員に顔を覚えられ、一生他人から後ろ指を指され続ける人間になってしまう。それだけは何としても避けたい……けれど結局いいアイデアは浮かばず、次の日曜日は駅前の喫茶店に集合することになった(涙)。

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日曜日は冒険日(クエストディ) 一文字 空 @Dash

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