第6話 はがねのナイフ


  家の前の道をまっすぐいった川の傍の武器屋に行き、

  「一番いい装備をくれ」と話し、勇者は『はがねのナイフ』を

  手に入れる。


また、ワケのわからない文章が『ぼうけんの書』に書き込まれていた。

武器屋? 家の前の道をまっすぐ行ったって武器屋なんてあるはずがない……あったとしたら警察に捕まるだろう。それに、『はがねのナイフ』って結構高価だった気がするんだけど……


 いろいろ悩みながらも日曜日に、家の前の道をまっすぐいった川の傍にある文房具屋・・・・さんに行ってみる。

「はい、いらっしゃい」

にこやかに対応してくれる、おじさん。この文房具屋さんに来たのは小学校以来かもしれない。

「ぼそぼそぼそ……」

店主のおじさんは、私の言ったことが聞き取れなかったのか、相変わらずニコニコしながらこっちを見ている。

「い、いちばん、いい装備をください!」

私は、もうヤケになって大声で言ってみた。

しばらく、おじさんは固まったままだったけど、後ろを振り返って今までと、まったく違ったトーンの声で話し始めた。

「……何十年ぶりかなぁ、そんなセリフを聞くのは」

お、おぅ。本当に通じた! 日本の文房具屋さん恐るべし!

そして、おじさんはカウンターの下から箱を取り出し私の前に置く。

「うちで一番の装備っていったら、やっぱりこのナイフかな」

「?!」

おじさんの出してきた箱に入っていたのは、すこし歴史を感じる、銀色に輝く……肥後の守(ひごのかみ)?っていうナイフ。

まあ、材料的には鋼(はがね)だし、ナイフっていえば、そのとおりなんだけど……これじゃあ詐欺だぁ。これが『はがねのナイフ』なの!? こんなのぜんぜん普通じゃない! 武器屋じゃなくて普通の文房具屋さんに売っているモノだもの!!


「おいくらですか?」

「八百五十円です」

(八百五十円て……8.5ゴールドぉ……安すぎっ) いくら初めての武器らしい武器でも、これじゃあ大して役に立たないのは目に見えてるよ。きっと『すらいむ』くらいしかやっつけられないに違いない。

「安すぎ(ぼそっ)」


 私の口にした独り言を文房具屋さん……もとい、武器屋のおじさんは聞き逃さなかったようだ。声のトーンがさらに変わって凄みのある声で言っていた。

「そこまで言われちゃあ、黙ってられねェなあ」

目をきらりと光らせて、奥から別の箱を出してきた……えっ、桐箱?!

それは八百五十円とは明らかに、格の違う桐箱に焼き印が押されたモノが出てきた。

「錬鉄青鋼乱刃だ」

そう言って、自慢げに刃を光にかざす。そもそも、さっきまでの量産品とは材質が違うし、刃の上にはカタナみたいな波紋が浮かんでいる。

「これ肥後の守ぶんぼうぐじゃない!……日本刀?」

「ふっ、本来の肥後の守は、武士が馬に乗る時に使う道具なのさ。だから作りも材料も日本刀と同じもんだ……まあ、お嬢ちゃんには無用のモノだったかな。俺としたことが大人げなかったぜ」

そう言って、桐箱をしまい。こっちはどうだという感じで別のモノを出してきた。

「黒打折畳刀子、別名『つらぬき童子』。値段は安いが、こいつもいいもんだぜ」

「……いくらですか?」

「八千円てところかな、お買い得だろう?」

(うっ、八十ゴールド……)

おじいちゃんにもらった五千円に、今月のおこずかいを足しても……七千円しかない。

「いいものなのは、わかります。値段もこれなら安いと思います……けど、わたしにはムリ」

もう、明らかに武器屋の顔になったおじさんはにやりと笑いながら

「いくら持っているんだい?」

と聞いてきた。

「……な、七十ゴールド」

「えーい、しかたねぇなあ(笑)。それで売ってやらあ、この値切り上手め!」

最後は何故か江戸っ子のような口調で、おじさんは笑って値切りに応じてくれた。

「お嬢ちゃん、武器に糸目をつけちゃあ駄目だ。いつも今、買える最高のものを手に入れるんだぜ。それが、もしもの時に自分を救うことになる……わかったかい?」

「は、はいっ!」

「いい返事だ。がんばれよっ!」

「あ、ありがとうございます」

武器屋、もとい文房具屋さんから帰ったら、どっと疲れが出た。今月、あと二週間あるんだけど……当分、学校帰りに寄り道は無しかぁ(涙)






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