第5話 旅の仲間

 春休みが終わって学校が始まったっていうのもあるんだけど、それよりも『ぼうけんの書』に新しい文章が書き込まれていたせいだ。


  勇者は学校で、旅の仲間タクヤと出会う。


ええーっ!タクヤくんが旅の仲間!? しかも学校で出会うって!! も、もしかして同じ学校の生徒??? ど、ど、ど、どうしよう……私はうろたえながらも、学校内で突然、声をかけらてこられちゃったら、なんて想像して授業も上の空だった。

でも、何日経っても、知らない男子から突然声をかけられるなんていうイベントは発生せず、無駄にドキドキし続けた挙句、様子がおかしいと友達の美桃みおに突っ込まれ、説明せざるを得なくなってしまった。

「なにそれ、面白い!」

やたら食いつきのいい美桃に、無理やり学校内の教務課に連れて来られ、事務のお姉さんに『一目ぼれしちゃった男の子がいるんですけど、下の名前しか分からないのでヒミツで名簿を調べさせてください♡』とか適当なウソをついて、在校生名簿を端から端まで閲覧した。


 結果、ウチの学校にはタクヤという名前の男子は三人いるというのがわかった。(恐るべし、美桃!)とか思っていたら、今度はそれぞれの男子の教室まで行って本人を直接調べるとか言い出した。いやーっ!恥ずかしすぎるよ、美桃っ! いくら他人事だからって(いや、他人事だからか)行動力ありすぎっ!

必死の抵抗も空しく、美桃に引きずられながら最初のタクヤくんである三年F組の岩槻 拓哉という人のクラスまで来た。私は、知らない上級生のクラスになんて来るのは、すごく気が引けるのに美桃はぜんぜんお構いなしで、いきなり近くにいた先輩の女子生徒に聞き始める。

「すみません、岩槻 拓哉ってひといますか?」

「えっ!?……アイツ、いま停学中だよ。ほら先月、脱法ハーブを持ってて捕まっちゃって。あんた達、知り合いなの? 悪いこと言わないから早く心を入れ替えて……」

「い、いえ……まったくの他人です。失礼しました」

最初からヘビィな人にぶち当たった。けど脱法ハーブで捕まるような人が、あんな真面目なメッセージを残すとは思えないので、この人は違うという事にして、次のタクヤくんのところに行く。


「次は二年C組の神坂 拓耶クンか」

上級生でなければ、緊張しないかなと思ったけど、同じ学年でも今まで話したこともない男子っていうのは別の意味で緊張するっ。

「どうする加奈? 同学年だよ。イケメンだったら付き合っちゃう?(*^_^*)」

本当に美桃のノリにはついていけない……。

「こんち~。このクラスに神坂 拓耶クンっているぅ?」

ますます軽い美桃の声に近くにいた女子(この子も今まで話したこともない娘だ)が振り返った。

おぅ、けっこうイケてる系だ。私の人生にはあんまり関わりのないタイプ。

「……アイツがこんな時間に学校にいるわけないじゃん。今頃はセンター街のいつもの店かどっかで……あんたタクヤの新しい彼女? アイツ遊び人だから気をつけた方がいいよ。悪いこと言わないから……」

「いえ、そういう関係じゃないっす……失礼しました」


「なんか、タクヤってロクでもないのが多いのかな」

美桃はけっこうひどい”タクヤ”評を言い出す。まあ同じ名前でもいろいろな人がいるんだなぁっという意味では私も同意するけど……。

「最後は一年生か……一年A組の清泉 卓也クン。年下の彼氏かぁ。どうだい加奈ちゃん?」

「もう! どうして美桃ってば、そういう方向に持っていこうとするのっ!?」

「それは、ずばり。その方が楽しいからさ!」

くだらないやり取りをしながら一年生の教室のある下の階へ歩いて行く。

「こんにちはーっ、たのもーっ!」

美桃って本当にめげない……。


「はい? なんでしょうか」

今度は頭のよさそうな女の子が返事をしてきた(クラス委員か?)

「このクラスに清泉 卓也クンっていう子がいると思うんだけど」

「はい。清泉君は、あそこの席の……あれ、今いないですね」

「ああ、いいよ。本人はいなくても、じゃあキミにリサーチしよう! 清泉君てどんな子かな?」

「はい?……えーと、真面目な男子ですよ。みんなに親切だし」

「顔は? イケメン?」

「イ、イケメン……わ、悪くはないかな。……先輩達は、彼とどんな関係なんですか?」

質問が脱線しはじめたせいかクラス委員長(推定)が私達のことを訝り始めた。

「ん? これから関係ができるかもってとこかな。 ところでキミは? 清泉君と、どんな関係だい?」

「えっ、わ、わた、私は……単なるクラスメートです!」

「本当? 彼女ってことじゃなくて?」

「ち、ちがいますっ!」

「ふーん、でも密かに狙っていたりするかな。フフッ」

一年生ごときは美桃の敵ではなかったようだ(笑)いいようにからかわれて顔を真っ赤にしている。

「うーん(笑)カワイイねぇ、一年生は。私達が来たことは彼には言わなくていいから……っていうか、言っちゃダメだよ」

「……わかりました」

顔を赤くしたまま、つっけんどんに答えた一年生の女の子をナマ暖かい目で見ながら美桃は、

「それじゃね♡」

と手をひらひらさせて、そこから退散した。


私も美桃の後を追いかけながら

「もう、美桃ってば一年生をカラカイ過ぎ……かわいそうだよ」

と若干、一年生の肩を持つ発言をすると、

「えーっ、あれくらい愛情表現のウチだよぉ(笑)。てか、どうする次の一手は?」

美桃は、心外とでも言いたそうに矛先を私に向けてきた。

「一手?」

「男と女なんて、待ってたって何も変わらないんだから、どんどん押していかないと」

「だから、そういうことじゃ」

「ぼやぼやしてると、タクヤくんをカワイイ一年生に取られちゃうぞ」

「もうっ、美桃っ!」

美桃にとっては私も一年生と同じくらいのレベルだったようだ……(涙)


 そうは言っても、この学校にいるタクヤくんの中では一番まともそうで、神社にあったような書き込みをしそうなのは一年の彼だし、何よりこれから一緒に行動するなら、ワタシ的には一番好ましい……い、いや私情をはさんでいるわけでは。でも、仲間っていうのはそういうのも大切だし本当に早くしないと、あの一年生と付き合い始めちゃったら簡単に仲間にするわけにも……

結局、家に帰ってからも悶々と悩んだ挙句、次の日も放課後に一年の教室へ行ってみた結果が、冒頭の話へとつながるのだった。



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