デパートのショーケースから
デパートのショーケースから眺める外は毎日様変わりしていく。私はマネキン業者に売られ、長い時間を倉庫の中で真っ暗なまま暮らし、そうしてついにデパートのショーケースのマネキンとして外へ出されて使われることになった。平日は仕事に急ぐ人で溢れ、休日は皆ゆったりと歩いている。季節によって人々の着る服は変わる。私の着る服も変わる。こちらを見つけてくる目はたくさんあるが、誰も私のことなんか見ちゃいない。彼らが見ているのは私が着ている商品の服だ。
私は動けずに視線を一点に向けたままショーケースの中でつっ立っている。誰かが行方不明になった私を見つけてくれるんじゃないかと思ったのだけど、無駄だった。一度私の友達が私のことをジッと見つめてくるもんだから私のことに気付いてくれたのかと思って胸を高ぶらせたのだけども、彼女が見ていたのも私ではなく私が展示している商品の服だった。彼女は私に気づかずにデパートの中に入り、数十分後に買い物袋を持ってデパートの中から出てきた。そしてそのまま遠くへ行ってしまった。
「(もうダメなのかな……)」
季節によって着せられる服は変わる。水着、コート、セーター。私はいろいろな服を着た。高々2万円程度のマネキンと同等に扱われ、ただ商品をよく見せるためだけに使われる。
「(あっ カオリさん!)」
偶然目の前にカオリさんが通りかかる。ふとこちらを向いた気がしたが、すぐに視線を戻して行ってしまう。この季節流行りのファッションを横目で確認しただけだろう。そうだ。やはり誰も私には気付いてくれないんだ。私は人混みへ紛れて遠くへ行ってしまったカオリさんの幻影を見つめた。
ショーケースに立っているマネキンの内一つはすごくリアルだ。その顔にはニッコリと笑顔が浮かんている。でもよく見ると、なんだか悲しそうに目元に露を付けていた。
(おわり)
マネキン磨き ひでシス @hidesys
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