穴もなくて、汗も垢も出ない、ツルツルのお人形さん
「まずはマネキンに不要な穴も塞いでおかないとね。」
カオリさんはそう言うと、別の部屋から肌色のパテも持ってくる。やめて! 私の声を無視して、カオリさんは作業を進める。幾つかの色の種類があるパネを練って、私の肌の色に近いものを作ると、カオリはそれを私の鼻の穴や耳の穴、口の奥、性器などに押し込んだ。本物のマネキンは鼻の穴が奥まで空いていないのだ。
パテで私の穴を塞いでからカオリさんは私の肌を擦る。完全に固まってしまった今でも肌に感触は残っていて、スリスリとされると続々と背中が疼いた。
「うう~ん。この乳首、マネキンにはおかしいし取っちゃおうか。」
お椀を被せたような完璧なプロポーションの胸の頂点には、先程まで刺激されていた乳首が起立した状態のまま残っている。マネキンにはいくらなんてもおかしい。
カオリさんはニッパーを持ってくると乳首の根本を挟んだ。「(いやあああああ!!!)」という声を無視してニッパーは私の乳首を切断する。ブツンッ、と嫌な音を立てて、切り離された乳首はテーブルの上にコロンと転がった。
「(あ、ああああ、ぁあああああ!!)」
私は絶叫した。カオリさんは取り去った乳首をおもむろに口に含むと、二三回噛んでからプッとゴミ箱に吐き出した。
「ううん。カチカチに固まってて、食べれたもんじゃないわね。」
「うふふ。メグミちゃん、肌のキメが細かい。でもねぇ、あんまり肌の模様とか指紋とかまで残っていると気持ち悪がられちゃうからね。全部磨いてツルツルにしないと。」
今度は紙やすりとヤスリスポンジを持って来た。おおまかに凸凹を取る番数の大きいものから、仕上げに使ってツルツルにする目地の細かいものまで。ええっ そんなもので全身を擦られたら、私、どうなっちゃうんだろう。
「(うが、うがぁぁああ! はぁはぁ、ぅぅうう……。やめて、そんな、おかしくなっちゃう……!)」
ゾリゾリと目の荒いヤスリスポンジで私は身体全身を削られる。ヤスリで肌を削られるのは電気ショックのような快感を私にもたらしていた。手の先の指紋から、お腹の肌のキメから、足裏の模様まで。カオリさんはスポンジで私の人間としての特徴をすべて削り落としてしまった。乳首を落とされた胸も綺麗に磨かれて、元からそこには何もなかったかのようだ。
次に目の細かいペーパーヤスリで荒く削られた皮膚を整えていく。水を吹いてから耐水ペーパーで削れば、プラスチックの表面はよく磨かれてツルツルのテカテカになる。
カオリさんはツルツルになった私の腕や顔を愛おしそうに撫でながら呟いた。
「んふふ。ああ、可愛くてキレイ。人間って、穴があって、汗をかいて、排泄だってするでしょう。でもあなたはもうこれで穴もなくて、汗も垢も出ない、ツルツルのお人形さんよ。ねぇ、嬉しいでしょう?」
「(そんな……! どうしてこんなこと。私を元に戻して…!!)」
私は心の中で泣きじゃくっていた。
「でもねぇ、マネキンになるには最後にもう一つ足らないことがあるの。何だと思う……?」
「(まさかそれって……)」
「分割線よ。」
カオリさんはそう言って、最後に電動丸ノコを持って来た。丸のこがコンセントに繋がれて唸りを上げる。ゥ、ウィイイイイイン!
「(やめてぇ!)」
ギュゥゥゥウウイイイイイイ!! 丸ノコはいとも簡単に私の手首を切断した。瞬間、手の感覚が失われる。ゴロンと切断された私の手が床に落ちた。固まって動けない私はただただ自分が分解されていく所を眺めているしか無い。
カオリさんは私をどんどんバラバラに分解していく。手首、腕、太もも、腰、そして最後には首。
「はぁぁ。ああ、ツルツルでテカテカな身体はやっぱりバラバラじゃないとねぇ。」
カオリさんは私にクリームを塗っていた時とは打って変わって興奮していた。私の切断された手や足を自分の口や胸や股に押し付けている。首だけになった私もカオリさんにヒョイと持ち上げられ、顔の前まで持って行かれるとキスをされた。
「ね、キスしてあげた。これでいいでしょ? ああ、カワイイカワイイ。」
カオリさんはカチカチになった私の首をギュッと抱きしめる。ふくよかな胸が顔に押し付けられた。ンブブブブ。
中までプラスチックになっているとはいえグロテスクな切断面をカオリさんは肌色の塗料を筆で塗ってごまかした。それから切断面にネジで金具を取り付ける。もう片方には穴あけドリルで凹面を作成する。そうしてバラバラになった私をカオリさんは組み立てると、マネキンのようなポーズにした。
ポーズはマネキンであっても上手くは立たない。立つように重心が設計されていないからだ。なのでカオリさんは金属製の土台を持ってくると、土台から生えた金属棒を私の股にあてがった。そして体重をかけてグググググと棒を股に挿入する。私は無理矢理自分に侵入してくる異物感に吐きそうになる。
「さぁ。これで完成よ。あなたの姿をよく見て。」
そう言われて姿見で見せられたのは、私とよく似た姿をしたマネキンだった。肌はテカテカと輝いて電灯の光を反射している。不自然に微笑んだその表情はたしかにデパートにあるマネキンとそっくりだった。
「(ううう。そんなぁ……。)」
「今日から毎日服を着せてあげるわね。」
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