2.往々に
夏はいよいよ本格的に僕らを蝕んできている。僕の隣にいるこの可愛くないブサイクな女は、他人の家にお邪魔しているという事実を全く感じさせないくつろぎようで、夏服のブラウスを手でパタパタと扇ぎながら、まだ僕も読んでいない最新巻の漫画を当たり前のように読んでいる。
「ねえ」
ブスが、思いついたように漫画から顔を離して、話しかけてきた。
「…………」
「もしさあ」
「誰が話しかけていいっつったよブス」
「世界から私とお前以外誰もいなくなったらどうする」
「は?」
ブスは漫画を閉じて、僕の方を向いて座り直す。
「どうする」
ブスはいつも通りのブサイクな顔をもっとブサイクにさせながら、手は僕の漫画を遊ばせている。
「法律という制約のなくなった素晴らしい社会に感謝してお前を殺す」
「むごすぎる」
そういいながらも、ブスはさほど傷付いた様子も見せずに、僕の飲み物を手に取り、口をつけ、グッと飲み干した。そしてしかめっ面をして、ぬるい、とたいそう自分勝手な文句を放った。
「ブスはどうすんの」
「ブスっていうな」
「デブスはどうすんの」
「殺すぞ」
ブスは、もう興味がなくなったというように、また漫画をパラパラとし始める。
「おい」
「うーん、勉強しなくなるぐらいで、他には何もないんじゃない」
「何でそんな、投げやりなんだよ」
「正直世界がどうにかなったところで私とお前以外誰もいなくなることってないと思う」
ひどい話だ。
「お前が言い出したんだろ。それが想定された上でのもしもの話じゃないのかよ」
「いや……いや、お前は私と二人きりになったぐらいじゃ人を殺せないよ」
「は?」
「うーん、残念な社会のクズ」
「なんだ? やんのかブス」
ブスはそれだけ言うと、コンビニの袋から二つに割るタイプのアイスを取り出し、僕に見せつけながらさも美味しそうに二人分平らげたあと、すぐにテーブルに突っ伏してよだれを出しながら頭の悪そうな幸せ顔で寝息を立て始めた。
僕は、ブスのブサイクな寝顔を見て、ブスが一生誰にも愛されず、誰にも見守られること無く、不幸なまま死にますようにというような内容の願い事を、僕の必要な時にだけ出てきてくれる、不特定多数の僕の神様たちに願った。
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