②いなか
遠かったな。東京からバリ近いのが売りじゃなかったのか。…に、しても。ここでどう元亭主と出会ってスピード離婚するんだか。こんなさびれた商店街しか駅前にないのに。なんでそう、わたしから逃げてくかなあ。
「で、どっちをどう行けばいいのか分からんなんだけど?どうしてこうにもベテラン小説家さんなのに説明力がないんの?染井さん?」
「ううう、編集と同じことないでよう!もう、迎えに来てるんだからいいじゃない!暑い!」
かわいい。ほら、こんなにもかわいい。とか思ってしまうこの脳みそがどうにもこうにもならない。もう、30なのにな。わたしはこのままで良いのだろうか。
「染井の感想なんてどうでもいいから!はやく車に乗せろー!わたしだって暑いんだ!」
「ひどいなあ…でも、そのとおりだねえ、車に乗ろうか!」
「よしっ!」
2年ぶりにあったとは思えないくらい、車の中で染井とはどうでもいい話ばかりした。わたしの今なんて染井はどうでもよいのだろう。でも、わたしはどうでもよくない。だから日本で一番暑いというので熊本と張り合っているこの県にきた。一緒に暮らして、一緒に居たい。
「着いたよー!ここが今日から吉野のおうちです!いえーい!」
「おおおおお!ここがわたしの避暑地となるのだなかっこわらかっことじ!」
「うるさーい!ご厚意に甘えているということを忘れない様に!」
「ほーい!」
そんな軽口を叩きながらわたしは思う。
染井は、わたしが歌手を休業すると発表したあの夜。一番に気にして電話をくれた。メールじゃないのかとか突っ込みたかったけど敢えての電話で凄くうれしかった。舞い上がった、夏休みの間住まわせて欲しいとお願いをした。OKをくれた。嬉しい。そう、思った。
でも、それは何か違う。あの時は嬉しかった。でもいまのやりとりで改めて感じた。何かが違う。
もっと近く?うーん?よく、分かんないや。
「吉野どーしたの?もう、熱中症になった?」
「うん!そうみたい!」
「もう、しんぱいさせないこと!」
「あ、本人が言ってるのに、言い方だけで『あ、この子熱中症にならない子だった』って判断したなー!?」
「…だって、そうじゃない!」
「そんなことあるめーか!」
昔に戻った感じがする。でも、実際は違うんだよね。大人になるってあんましいいことじゃない。建前とか嘘とか簡単にできてはいけないものが普通にできるようになってしまって。相手の気持ちが知りずらい。自分の気持ちもわかりずらい。
この気持ちに名前を付けられない。
とりあえずEND
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