染井吉野
ゆかんこ
①とうきょう
今東京にいますと言っていいのか迷うほどのこの風景。
右を見てー、住宅。左を見て―、住宅。前を見てー、信号の無い道路。
そうここは日本の首都、東京?私が吉野にそそのかされてやってきた東京はそんなところ?いや、本当はこれは虚像で本当はここはとかあってほしいものだけど実際そんなことないのでつらい。私はなんのためにここに来たんだ?
「いやそりゃー、わたしにあうためでしょい?」
・・・いつの間にか声に出ていたらしい。
「そんなこともあるにはあるかも。でも本当は、」
「ああー、知ってる知ってる。人気作家さんと対談するためでしょ?いいねえ、人気新鋭作家さんはー」
そう、私は人気が少し出てきた駆け出しの作家。まさか、そんな奴があんな有名作家様と対談させてもらえるなんて。夢みたいだ、夢だったら覚めないでくれ。私にはあの人に言わねばならないことがある。つらい時に救ってくれありがとうございました、あなたの作品が大好きです、と。
「なになに?あの方にありがとうございますって明日言えるのかキラキラ?」
「わっ!ちょちょ、頭ん中読まないでー、はずいから」
「いやー、スーパーで買い物帰りの道端でそんなこと思ってる染井もどうかと思うけどなあ?わかりやすいし?」
「う…、まあ、それは、仕方ないというか、恋に近い信仰心というか、吉野こそ、大丈夫なの?名の知れた歌手さんなんでしょ?」
こいつは凄いんだ、始めたらすぐ月に上りつめて、恋も恋も恋もたくさんしちゃって。
「んー、ほらここ東京だし?」
「なめてんの、もう!ここ、埼玉に限りなく近いじゃんかい!なにが東京23区だ!エロマンガ先生の聖地なのは十二分に分かったけど!」
「いやあ、これから染井が一緒に住んでくれんでしょ?大丈夫だよー!」
・・・?
「いや、誰が言った?昨日、言ったかな?酔ってたからなー…」
「うんうん、昨日言ってたよ?吉野と一緒に住みたいハグしたいから一緒に住むー、住むのだー!って♪」
・・・言ってないな。これは明らかに言ってない。私が今更、吉野との間のことに何かを望むとも思えないし。思いたくない。そんな重い女で居たくない。5年前なら言っちゃったかもだけど。今はあの本があるから大丈夫。
「あ、そういやさ、呼んでくれた?あの本!」
「ああ、赤くない意味のないはずの糸でつながるあたしとあなただっけ?」
「そうそう!どうだった?」
「ああ、良かったよー!特に_____
昨夜。
「ああ、もうあんな素敵な文章書いてくださる作家様と一緒にすみたーい!」
「…そっか、わたしじゃあ、だめか」
とりあえずEND
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