絡めとられる羽



近づけば 近づくほど 溺れていく

ずぶずぶと 底なし沼に 引き込まれて

もうそれは、抜けられない がんじ搦めの罠のように


それなのに、ただただ、身をよせるばかり


朝起きたら、子宮が痛い

昨夜のしるしが ずっと身体に残って

一日中、ここに あなたの存在があるかのようだ

心だけでは物足りないと、まだまだ傷つけたりないと

あなたは きっと笑っているだろう


今頃あなたは 仕事をしながら

きっと 窓の外を 降り出した雨を 確かめている

俺の想いなど所詮 君では務まらないんだと 嘲笑あざわら

ほうっておいてくれよと うそぶきながら

私のことなど 気にもしてない 素振りをしている


その実、あなたは

私が去っていかないことを 肌で知り

追わずとも 手に入れたものには

無情の心を垣間見せる 冷え過ぎた 尖った氷


プライドだけ高い私は、もう連絡を断ち切るだろう

私は、あなただけではないのだから

別に あなたなどいなくても、誰かといられるのだから

いつでも離れられるように 長い間 準備してきたのだから

いつしか一人で いられなくなってしまった あなたのせいで



ふわりと 抱きしめてくれた 幼い日に

はるか昔に 誓った約束に 失った時の羽

よくここまで 一緒にいたね 

お互いに こんなに変わってしまったのに


いつからあなたが 私の身体で遊びはじめた

ひとつひとつ 実験するかのように 触れては手を引っ込めて

指先だけでも感じやすい 私の肌に


私の花の蜜は、もう収穫し終わった頃

みつばちには、もう用はないでしょう

さっさと ほかの花に行けばいいんだ 同情などいらない


きっと 失ったものにだけ 愛を注ぐあなたに

やっと 私は見つめてもらえる時が来たのを知る

郷愁になって 初めて見つめられる皮肉

できるだけ悲しめばいい、後悔すればいい


もしも 願いが 叶うなら

空に ただ漂って 浮かんだまま

日がな一日 そんなあなたに 視線を注ぐ

ただの夏の風になって 思う存分 見つめていたい


そうして 決意をしたら 振り返らずに

旅立つ時が やってくるように


私は、私でいられるように 強く 儚く 散れるよう





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