官能ごっこ。
甘噛み
君は 甘噛みのこいぬと 同じで
構ってほしいと
歯がムズガユクなると
決まって ぼくの肩を 噛みに来る
ねぇねぇと
ぼくの耳に くちびるをつけて
ぺろっと なめるのは くすぐったすぎる
ほしくなると
身体中に キスの嵐を降らせに来る
ぼくはただ黙って、君を抱きしめることにする
*
物足りない君は
物欲しげな君は
ずっと拗ねた こいぬのように
きゅんきゅんと はなをならす
そんな君を見ているのは
めちゃくちゃ気恥ずかしくて
こどもでもないのに そんな姿を見せるなんて
ぼくにだけ ここでだけ ってわかっていても
逃げ出したい気分になる
*
こんなに甘えていても、君はぼくの恋人じゃない
甘噛みの返事に ぼくができるのは
唯一許されたキスだけで
そう頼まれているから
君は抱いてはいけない人だから
勝手なこいぬの約束を 破らずにぼくは守る
ぼくは 今夜のたった一回のキスに
万感の想いをこめて
長く 優しく 抱くのと同じように
せつなさを封じ込めて
ぼくのすべてを注いでいる
*
やっと眠りについた こいぬの涙の痕は
頬から剥がれて
いとおしい 白いリボンとなって
空中に そっと漂いはじめる
いつしか 明日の君を包む紙が
空から舞い降りてきたなら
その涙のリボンは
君を追いかけて クルクル結ぶのだろう
彼の許に届けられる プレゼントとして
ぼくはただ この先を見守るしかない
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