第7話 真相は闇の中へ

さて原因不明の症状により緊急入院した私であったが。なんの病気であるかは判明しなかった。なんか両脇の腎臓のあたりがどすーんと重く感じて、歩くのに支障が出るレベルであったのは記憶している。すわ殺人未遂か?と私が考えたとして誰が非難できようか。あんな症状は見たことも聞いたこともない。毒物が完全に疑われる症状だった。私が倒れる数日前にもドラッグストアから直筆のハガキが兄あてに届いていた。「ご来店をお待ちしております」と書かれていたように思う。薬屋から直筆のハガキがわざわざくるほどのお得意様ということなのだが。起きた事件が事件なのでうさんくさい臭いを感じるのはいたしかたない。それに私が食べていた食事類を兄が「あれ片づけておくね」といって証拠隠滅を計っている。いっておくが兄は私が出したゴミ(袋めんの調味袋だった)にいちいち因縁をつける位他人の気持ちを考えない男だし(ゴミはもめるので兄弟間で完全分別制)、福祉とは無縁の男でもある。そんな親切心など持ち合わせてはいない男なのだ。この薄気味悪い事件は。結局謎のまま迷宮入りしてしまった。私の病室に「胃がいてー胃がいてー」っと胃を抑えながら帰っていく兄の姿が印象的だった。あんな異常な緊張状態にあった兄は初めて見る姿であった。余程精神的にまいるようなことがあったと思われる。ついでにいうとそこは丁度父が入院していた病院で、くしくも親子で同じ病院に入院することになったのだが。父が「警察に電話したそうやな」といっていたので、一応何かはあったのだろう。私は何も聞いていないが。父が倒れたのは75歳であったが、その年で年金が減額されるという話があった。兄の給料よりも高い年金で、あとあと減額の話が勘違いだったことがわかるのだが、それまで兄はそのことを相当気にしていたようである。父親の年齢が75を過ぎると生活ができなくなると信じられていたのだ。兄にとってあまりにも都合のよい年齢で死を迎えていた父。これは悪運なのか天運なのかそれとも作為的なものなのか、判断に困るところである。あまりといえばあまりな男なので疑いをかけたくはなるが父が発症していたのは心筋梗塞なのでさすがに意図的に寿命を操作したのではないと考えられる。どこまでも怪しい男なのに変わりはないが。その後土下座を強要されたり蹴られたり、兄の人格に異議を唱えたくなるような事例がたびたびおこった。その昔しつけようとした私の母を突き倒したように、(私たちは異母兄弟である)兄は自分に害が及ぶようなことを嫌っているようであった。そこに兄の甘えを私は感じた。私はこの年齢で高尿酸血症、いわゆる痛風にかかったが、正直こんな贅沢病を発症する心当たりがまるでなかった。尿酸値が12を超えていて、現在薬を飲まないと歩行に支障が出るレベルである。兄と同居している間はとにかく体が重かった。半死人のように寝込み、「どの程度動けるの?」と聞いた兄に「5%程度」と回答した記憶があるので、ほとんど身動きできないレベルだったと思われる。「そんな人間に生きてる価値なんてない」と言い放つ冷たい兄である。ちなみに別居した現在はピンピンしている。あの呪われた家に住んでいる限り私の命は常に危険にさらされていたことになる。いっしょに住んでたら殺されてもおかしくない男。それが私の兄である。仲のいい兄弟がうらやましい。最初は私も色々親切心で兄の健康を心配したりしていたが、それを「笑える」と一蹴した常識の範囲外の男である。くわばらくわばら。

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