第6話 疑惑の兄

さて長々と講釈をしてしまったが、主力メンバーは以上である。現在一言二言だけ話すような不完全な人格を除けば基本的には4~5名の人格で私の頭は回っている。病状も落ち着いている。だが私のこの病気は多重人格とするにはやや不十分なもののようで、HPからたどったカウンセリングのチェックシートで診断すると特に異常なしと判断されるから面白い。異常がなくてたまるかこんな病気。で、一つの可能性として虐待や生命の危機に瀕した時の恐怖心が病原であるともつづられていた。私に心当たりがあるかと言われればあるのであるが・・・。それは15も年上の兄である。父親も怖かったがあくまで常識の範囲内の男ではあった。だが兄は非常識な男であった。ちょっと常軌を逸しているところがあって。私はこの兄とまだ正常なただの人間だった時に戦うことを余儀なくされた。具体的にどんな男かというとまず窃盗の前科があった。子供の頃の話かもしれないが、どうやらつかまったことがあるらしい。これは父親に迫って白状させて知った話である。何故教えなかったのかとつめよったが、「お前に教えると兄弟仲が悪くなると思ったから言えなかった」とのこと。そんな危ない情報を隠すなと私は怒ったのだが。兄は自分が窃盗犯だったからか思考が完全に性悪説に傾いており。自宅を鍵だらけにして要塞化している。父が病気で入院して以降、「鍵なんかかけずにおくなんて、馬鹿のやることだぜーへっへっへ」とふてぶてしく笑いながえら家じゅうの扉およびふすまに鍵をかけてしまった。そんな姿を横で見てるとプロの空き巣にしか見えないから困る。本人に自覚はないようだが。この兄が父の病気をこういった「あんな性格さえしてなけりゃ今頃ぴんぴんしてたはずだぜー」と。まるで自分に原因があるとでもいいたげな言い回しに私は完全に疑心暗鬼に陥った。極めつけは殺人未遂容疑である。私は父の発病以降、医学を一生懸命にかじって最低限の事はわかるようにしておいた。父の病気は腎不全で透析患者だったのだが何かの役に立つかもしれないと様々な知識をかじったのである。そしてあの日、大学病院に訪れた私は普段と違う奇異な言動をする父親に違和感を覚えた。そして血液検査結果を要求した。すると父の体内のカリウムの値がたった1日で倍に突然跳ね上がったのだ。すでにこのころ父は転院の話が出るほど安定していた。にもかかわらずなぜそのようなことになったのか。帰宅した私に兄はいった「昨日のシュークリームの差し入れがまずかったかな?」と、シュークリームでカリウムが倍に増えたと?病院は食事規制があって透析患者である父は自由に物は食べられない。カリウム倍というのは命にかかわる異常事態である。前日まで安定していた父の容態が急転したこと、そして暴力性、窃盗の前科、謎のカリウム事件。私の恐怖心はピークに達した。これは危ない男だと、私の本能が告げていた。そして最終的にこうなった。私は突然謎の症状に見舞われて救急車で運ばれることになった。緊急入院である。毒薬を盛られた、そう表現するしかないような症状に見舞われたのである。最初は警察に電話した。だがとりあってもらえなかった。誰の助けも借りられないまま私は家の主導権を全て兄に奪われた。私の入院を境に自宅の金銭の管理は全て兄が取り仕切るようになった。正直私には強盗か何かに襲われた感覚しかなかった。危ない男を前にした危ない連続事件、私の命は風前の灯になったように感じられた。

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