第3話 雪女

大変ありがたいことに読む方が意外と多くびっくりしています。ですがいかに多重人格者とはいえ四六時中面白い話をしているわけではありませんし。人格たちは自分の意見を言うのを苦手としています。「私は○○だと思う」こういった会話が苦手なのが、様々な実験の末に判明しました。大体が私の想像のできる範囲内でしか会話しないんですね。独自の意見を持った人格というのはそう多くはないです。私の中で伝説的な人格に「雪女」と名付けた人格がいました。大変聡明で頭の回転もよく、私の想像しないレベルの会話をしていました。「カワイイ」という尺度で物事をとらえる人格で、色んな女性をミシュランのように星をつけて格付けしていました。当時私は誰かに襲われているという錯覚にさいなまれており、雪女もその危険性を感じて飛び出してきたようです。「男はこう考えるだろうけど、女性はこう考える」と様々な独自視点の見解を披露していました。記録が残っていないのが残念でなりません。そもそも全部記憶をしているとハッタリをかました人格がおり、完全に騙される形になったため古い記録は残っていないのです。雪女は不完全ながら手足を動かすことが可能だった人格の一人です。口調はオバサン風で、五十代位の女性に近いしゃべり方をしていました。雪女があらわれてから去るまでの間、私の中の人格たちは比較的落ち着いていました。その雪女が消えた瞬間は印象的でした。早朝、街角の百貨店の前で倒れた私の脳になんらかの負荷でもかかったのか。「ぼーー!!!」と断末魔の叫びをあげたのです、人間の叫び方というレベルではなかったです。その断末魔を最期に雪女は忽然と姿を消しました。そして七人組も現れなくなりました。この叫びを境に私の病気は悪化していきます。レッドアイと名付けた狂気のマッドサイエンティストの人格が様々な邪魔をするようになったのです。自分の人格なのだから自分の味方に違いないというのは思い込みです。自分に害をなす人格というのもいます。口の悪い人格というのもいて、あまりにもむかついたので自分で自分の顔をぼこぼこに殴ったこともあります。はたで見てたら馬鹿にしか見えませんが、黙らせるためにやむなくそうしていました。思いっきり殴ると「ゆるしてー!」と叫んでいましたが。レッドアイは痛覚を司っている人格で私の体に様々な痛みをもたらしました。中性子線砲の狙撃者という感じで国家権力を総動員した暗殺(そういう設定の世界観)

が目的だったようです。私は中性子がなんだかは知らなかったので、こういうトリックに対抗するすべがありませんでした。自分が自分を殺すなんてありえない話ですが、この人格はそういった常識では考えられないほど頭がいっていました。こういった研究者の人格は15名くらいいましたが、このレッドアイだけは私の説得に耳を貸しませんでした。他の人格とは丁寧に説得を重ね、自傷行為をやめるように指導することができたのですが。この人格だけはその説得もぬかに釘でしかなかったです。が、その狂気の人格も他の人格同様一期一会の人格だったらしく、ひとしきり暴れた後に姿を消すことになりました。正直二度と会いたくない人格です。雪女亡きあとの私の体は正直カオスと呼ぶにふさわしい状態でした。なので何度雪女を探したかわかりません。命がけで私を守ろうとしてくれていた人格です。会いたいに決まっています。ですがやはり雪女は永遠に現れなくなってしまったようです。大変残念なことですが。

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